~遺留分は誰がいくら請求できるの~具体例を挙げて弁護士が解説

遺留分侵害額請求(遺留分減殺請求)について、お調べの方の中には、ご自身が最終的に取得できる金額がいくらになるのか関心のある方も多いのではないでしょうか。

ここでは、遺留分について誰がいくら請求することができるのか、具体的な事例を交えつつ解説します。

遺留分を請求できる人

遺留分を請求することができるのは、①配偶者、②子(代襲相続者も含む)、③直系尊属です。
兄弟姉妹には遺留分が認められていませんので、兄弟姉妹は遺言書の内容にどれだけ不満があっても遺言の内容に不満を述べることができません。

遺留分割合

遺留分は、基礎となる財産(第3で説明します。)に遺留分割合と法定相続分を掛ける方法で算定します。

遺留分割合は、法定相続人の人数や続柄によって異なり、相続人が直系尊属(親・祖父母等)のみの場合には1/3、それ以外の場合には1/2と定められています。

遺留分割合のみを記載したとしても分かりにくいため、以下、遺産に対する実際の取得割合(遺留分割合×法定相続分)を以下の表に纏めました。

相続人の続柄遺留分割合配偶者の取得割合子供の取得割合親の取得割合兄弟の取得割合
配偶者のみ1/21/2×××
配偶者と子供1/21/41/4÷子供の数××
配偶者と親1/21/3×1/6÷親の数×
配偶者と兄弟1/21/2×××
子供のみ1/2×1/2÷子供の数××
親のみ1/3××1/3÷親の数×
兄弟のみ×××××

例えば、法定相続人が配偶者と子供3人であった場合の遺産に対する各人の取得割合(遺留分)は以下の通りです(相続人欄が「配偶者と子供」である部分をご参照ください。)。

  • 配偶者:1/4
  • 子供:1/4÷3人=1/12

遺留分算定の基礎となる財産

遺留分算定の基礎となる財産は、以下の通りです。

相続開始時に有していた財産の価格

遺産として最もイメージしやすい財産です。

相続開始1年以内になされた贈与

贈与を受けた者が、相続人であるか否かで差異はありません。

遺留分権利者に損害を与えることを知ってした贈与

「遺留分権利者に損害を与えることを知ってした」ものか否かは、

  • 贈与時における贈与者の全財産に占める贈与財産の割合
  • 贈与後に贈与者の財産が増える可能性
  • 贈与時の贈与者の年齢や健康状態

などを総合考慮して判断されます。

「遺留分権利者に損害を与えることを知ってした」ものであることを立証する責任は、遺留分権利者にあります。

受贈者が相続人であるのか否かで差異はなく、期間制限もありません。

遺留分権利者に損害を与えることを知ってした不相当な対価による有償行為

「不相当な対価による有償行為」とは、無償贈与ではなく一定の対価が支払われているものの、その対価が全く釣り合っていない場合のことをいいます。

例えば、被相続人が、5000万円相当の不動産を100万円で譲渡・売買した場合には、差額の4900万円を遺留分算定の基礎となる財産に参入します。

相続人に対して、相続開始前10年間にした特別受益に当たる贈与

2019年7月1日より前に開始した相続については、10年間の期間制限はありません。

特別受益については、別記事において紹介予定ですのでそちらをご確認ください。

獲得金額の計算方法

遺留分侵害額請求によって獲得できる金額の計算方法は以下の通りです。

遺留分算定の基礎となる財産×遺留分割合×法定相続割合

- 遺留分権利者が受けた特別受益
-(遺産分割の対象財産がある場合には)遺留分権利者の相続分相当額
+(故人に負債がある場合には)遺留分権利者が負担する債務の額

具体例

遺留分侵害額請求によって獲得できる金額の計算方法は上記の通りですが、正直言葉で記載してもイメージができないと思います。
そこで、以下具体的な事例を用いて遺留分獲得金額を計算してみましょう。

事例

相続人配偶者X(法定相続分 1/2)
子Y、Z(法定相続分 各1/4)
遺言
  1. Yに対して1000万円を遺贈する。
  2. 第三者Aに対して8000万円を遺贈する。
遺産上記の他に、以下の遺産が存在した。
  1. 預貯金 2000万円
  2. 負債  1000万円

遺留分獲得金額

(1)前 提

ア 遺留分算定の基礎となる財産

2000万円+1000万円+8000万円-1000万円
=1億円

イ 各相続人の相続分相当額(財産)

まず、法定相続分に応じた各人の相続分を算定します。

  • Xの相続分:(2000万円+1000万円)×1/2
    =1500万円
  • Yの相続分:(2000万円+1000万円)×1/4-1000万円
    =-250万円
  • Zの相続分:(2000万円+1000万円)×1/4
    =750万円

もっとも、上記の通り、マイナスが存在しますので、実際の取得額は以下の通りとなります。

  • Xの取得額:2000万円×1500万円/(1500万円+750万円)
    =1333万3333円
  • Yの取得額:1000万円(遺贈)
  • Zの取得額:2000万円×750万円/(1500万円+750万円)
    =666万6667円
ウ 各相続人の相続分相当額(債務)
  • Xの相続分相当額(債務):1000万円×1/2
    =500万円
  • Yの相続分相当額(債務):1000万円×1/4
    =250万円
  • Zの相続分相当額(債務):1000万円×1/4
    =250万円

(2)遺留分獲得金額

  • Xの遺留分獲得金額:1億円×1/2×1/2-1333万3333円+500万円
    =1666万6667円
  • Yの遺留分獲得金額:1億円×1/4×1/2-0円-1000万円+250万円
    =500万円
  • Zの遺留分獲得金額:1億円×1/4×1/2-666万6667円+250万円
    =833万3333円

(3)最終的な取得額

  • Xの最終的な取得額:1666万6667円+1333万3333円-500万円
    =2500万円
  • Yの最終的な取得額:500万円+1000万円-250万円
    =1250万円
  • Zの最終的な取得額:833万3333円+666万6667円-250万円
    =1250万円
  • Aの最終的な取得額:8000万円-1666万6667円-500万円-833万3333円
    =5000万円

最後に

生前に遺贈が存在しない場合かつ全財産を一人に遺贈する旨の遺言が存在する場合など、単純な計算で遺留分侵害額を算出できる場合も存在しますが、上記の通り、複数の生前贈与や遺産の一部が遺贈された場合、負債がある場合などには計算式が複雑となります。

とりわけ、上記では記載しませんでしたが、特別受益や過去数年にわたる生前贈与が存在する場合などには、更に複雑な計算が必要です。

遺留分を侵害されているとお考えの方や遺留分侵害額の具体的な金額についてお知りになりたい場合は、どうかお気軽に弁護士までご相談くださいませ。

この記事を書いた人

弁護士 西川雄介

平成23年弁護士登録:司法試験(口述試験)3位通過
平成23年から平成26年まで長島・大野・常松法律事務所にて勤務し、大手上場企業や国外企業などを依頼者として企業法務・予防法務に注力しました。
その後、個人ないし中小企業の支援を行うべく弁護士法人佐野総合へ転職し、近年は遺産相続・交通事故トラブルや中小企業からの顧問対応等の取扱いが増えております。
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