東京高決平成8年9月2日

推定相続人の廃除は、遺留分を有する推定相続人が被相続人に対して虐待及び侮辱並びにその他の著しい非行を行ったことが明らかであり、かつ、それらが、相続的共同関係を破壊する程度に重大であった場合に、推定相続人の相続権を奪う制度である。右廃除は、被相続人の主観的、恣意的なもののみであってはならず、相続人の虐待、侮辱、その他の著しい非行が客観的に重大なものであるかどうかの評価が必要となる。その評価は、相続人がそのような行動をとった背景の事情や被相続人の態度及び行為も斟酌考量したうえでなされなければならない。
 3 そこで、本件についてみるに、前記認定事実によると、抗告人と被相続人との不和は則子とはるゑの嫁姑関係の不和に起因し、抗告人と被相続人がそれぞれの妻の肩をもったことで、抗告人夫婦と被相続人夫婦の紛争に抗大していったものである。則子とはるゑは、頻繁に口論し、その結果お互いに相手に対する悪口、嫌がらせ、果ては暴力を振るうような関係に至っていたことが認められる。抗告人と被相続人も紛争に関わる中で、口論は日常的なものとなり、相手に抱いた不信感や嫌悪感を底流として、双方が相手を必要以上に刺激するような関係になっていったものである。そういう家庭状況にあって、抗告人がはるゑや被相続人に対し、力づくの行動や侮辱と受け取られるような言動をとったとしても、それが口論の末のもので、感情的な対立のある日常生活の上で起こっていること、何の理由もなく一方的に行われたものではないことを考慮すると、その責任を抗告人にのみ帰することは不当であるというべきである。
 そうすると、抗告人の前記言動の原因となった家庭内の紛争については、抗告人夫婦と被相続人夫婦の双方に責任があるというべきであり、被相続人にも相応の責任があるとみるのが相当である。しかも、抗告人は被相続人から謂われて同居し、同居に際しては改築費用の相当額を負担し、家業の農業も手伝ってきたこと、被相続人も昭和58年から死亡するまで抗告人との同居を継続したことなどの前記認定事実を考慮すれば、抗告人と被相続人は家族としての協力関係を一応保っていたというべきで、相続的共同関係が破壊されていたとまではいえないから、抗告人と被相続人の感情的対立を過大に評価すべきでなく、抗告人の前記言動をもって、民法第892条所定の事由に当たるとすることはできない。

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