東京高決昭和59年10月18日

甲山バルヴは被相続人が事実上支配していた同族会社ではあったが、いわゆる法人成りをした個人企業類似の小規模会社などとは異なり、資本金二四億円もの大手企業であったのであるから、会社と被相続人個人とは業務執行面や財産所有関係等において区別され、また、同会社に勤務していた相手方が会社の業務上行う行為も、独立的な企業組織内の行為として、被相続人に対する個人的行為とは別個にみうるものであったと認められる。このような関係からすれば、相手方が同会社の財産を業務上横領した行為をとらえて、これを実質上被相続人の個人財産の横領あるいはこれに匹敵する行為とみることは、被相続人の主観的心情としてはともかく、客観的、社会的な評価としては相当でないというべきである。また、相手方の右横領行為が同会社の倒産の前後にかけて行われたことは明らかであるが、本件記録によっても、右横領行為が当時被相続人において奔走中であった同会社の建直しを妨害するために行われたものであるとか、あるいはこれが同会社の倒産の原因のひとつになったとかの事実はこれを認めうる的確な資料がないのであり、更に、右横領行為そのものによって個人としての被相続人の面目や体面が著しく失墜したと認めるに足りる資料もない。民法八九二条にいう「著しい非行」とは、必ずしも被相続人に対する直接のものだけに限られると解すべきではないが、以上の点その他引用に係る原審判認定の諸事情を総合して判断すれば、相手方の右横領行為をもって、被相続人との間の相続的協同関係を破壊するほどの「著しい非行」に当たるものとするには、なお不十分であるとせざるをえない。

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