広島高判平成13年1月15日

  1 亡元及び亡ヤエ夫婦は、控訴人が田中夫婦の実子として昭和38年2月11日出生した後、亡元及び亡ヤエ夫婦の嫡出子の長男として右出生届出をして以来30数年間、控訴人を実子として養育し、その情愛も深く、控訴人も、同夫婦の実子であると信じ、孝養を尽くし、実の親子同様の生活関係を継続してきたものである。しかも、控訴人は、亡元及び亡ヤエの葬儀はもとより、被控訴人今井らの祖母に当たる亡フミの葬儀の喪主まで務め、その他今井家の墓所の世話も行ってきた。
  2 控訴人は、被控訴人今井から、平成9年7月上旬ころ、「○○の財産のことだ、お前は秋山ヤエの実子ではない。そのことは知っているだろう。」と電話で告げられ、控訴人の実父母が田中夫婦であることを初めて知らされたものである。
  3 被控訴人らの本訴請求が認められた場合には、控訴人が被控訴人今井から亡元及び亡ヤエ夫婦が実父母ではないと知らされた後である平成9年10月に本件建物を完成させているものの、本件土地を亡ヤエから相続することができないため、本件建物の存続基盤を失うこととなり、控訴人及びその家族は生活の本拠を失うおそれがある。
  4 被控訴人らは、控訴人と亡元及び亡ヤエ夫婦との親子関係がないことを知りながら、控訴人を同夫婦の実子として接し、同夫婦が相次いで死亡するや、相続人として亡一郎土地及び亡ヤエ土地建物の権利を主張するものである。これは、控訴人と同夫婦が30数年の長期にわたって現実に実親子と同様の生活基盤を築いてきたにもかかわらず、一方的に控訴人に対してその出生の秘密を暴露し、右実親子として社会的に認容された生活の実体を損なうものである。
  5 控訴人は、亡元及び亡ヤエ夫婦が死亡しているため、現時点では同夫婦と養子縁組を行うことが不可能であるが、控訴人が本件訴訟の結果如何により両親と信じていた同夫婦の相続財産を全く得ることができなくなることは、控訴人を嫡出子として養育してきた亡元及び亡ヤエの各意思にも反するものである。
  6 被控訴人今井及び亡育子は、亡元及び亡ヤエ夫婦の各生存中は控訴人と同夫婦の親子関係の存否を争わず、また本件遺産分割協議によって相当の不動産を取得し、その遺産分割協議の効力についても異議を述べなかったにもかかわらず、同夫婦が死亡するや突如として、控訴人と同夫婦の親子関係を全く否定し、本件遺産分割協議によって亡ヤエが得た亡一郎土地のみならず、秋山家の財産である亡ヤエ土地建物の引渡しを求めて本件訴訟を提起している。
  7 亡元及び亡ヤエは、亡一郎土地及び亡ヤエ土地建物について、控訴人以外の者に譲渡する旨の意思表示をしたことはなく、これを戸籍上の子である控訴人が承継するものと認識して遺言書の作成もしていない。
 なお、亡ヤエが被控訴人今井らに対し、亡元死亡後に亡一郎土地等の返還をすることを約束していたことを認めるに足りる的確な証拠はない。
 以上の事実を総合し、一般の社会通念に照らすと、本訴請求は、控訴人に対して一方的に財産上はもとより精神的にもその利益を著しく害するものであって、不当な結果を招来することは明白であるから、権利濫用として許されないものというべきである。そして、本件訴訟が、財産上の紛争であって、親子関係の不存在そのものを訴訟の対象とする身分関係存否確認訴訟のように対世的効力を有する判決をもって画一的確定を図る必要はないから、権利濫用法理(民法1条3項)が適用されるものと解するのが相当である。
 また、亡ヤエと控訴人との間に、遅くとも亡ヤエが死亡するまでに亡一郎土地及び亡ヤエ土地建物について、黙示の死因贈与が成立しているものというべきである。

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