最判昭和54年7月10日

旧民法下の遺産相続における共同相続人のうちの一人が相続財産のうち自己の本来の相続持分をこえる部分について他の共同相続人の相続権を否定し、その部分もまた自己の相続持分であると称してこれを占有管理し、他の共同相続人の相続権を侵害している場合については、相続回復請求権の規定の適用をとくに否定すべき理由はないが、右共同相続人の一人において、自己の本来の持分をこえる部分が他の共同相続人の持分に属することを知りながら、又はその部分についてもその者に相続による持分があると信ぜられるべき合理的事由があるわけではないにもかかわらず、その部分もまた自己の持分に属するものであると称してこれを占有管理している場合には、右規定の適用がなく、侵害者たる共同相続人は同規定による時効を援用して自己に対する右侵害の排除の請求を拒むことができないものと解すべきである(最高裁昭和四八年(オ)第八五四号同五三年一二月二〇日大法廷判決・民集三二巻九号一六七四頁参照)。そうすると、共同相続人相互間における相続権侵害については常に相続回復請求権の規定の適用があるとした原審の判断は、法令の解釈適用を誤つた違法に陥つたものであり、原審の確定した事実だけでは、訴外C、同Dの経由した登記が上告人に対する右規定を適用すべき相続権侵害となるかどうかを決することができないから、右違法は判決に影響を及ぼすことが明らかである。論旨は理由があり、その余の点につき判断するまでもなく原判決は破棄を免れない。そして本件は、次のとおり右規定を適用すべき相続権侵害の有無の点等について更に審理を尽くす必要がある。
 すなわち、記録によれば、被上告人は、昭和二一年一一月二七日、上告人は訴外Cを家督相続人に指定して隠居したのであるから、上告人の遺産相続による権利は右隠居により右訴外人に帰属した旨、主張したところ、上告人は、同年三月二七日か同年一二月一五日、上告人は訴外Eを出産しており、右隠居時に訴外Eが少なくとも胎児としていたのであるから、右家督相続の指定は当然無効であるというのであるが、被上告人は、更に、Eは生後まもなく死亡したと主張していることが、明らかである。かりに被上告人主張のとおり家督相続指定がされ、かつ、訴外Eの存在により右指定が無効であるとしても、訴外Eが生後まもなく死亡したものであるとすれば、特別の事情でもない限り、訴外Cにおいてその無効であることを知り得ず、かつ、右訴外人がその無効を知り得なかつたことが客観的にも無理からぬものとされるであろうから、右訴外人は自己が上告人の遺産相続による持分権を取得したものと信じていたものであり、かつ、右訴外人に持分権が帰属したものと信ぜられるべき合理的事由が備わつている、といえることが考えられる。その場合には相続回復請求権の規定が適用され、特別の事情があつて右の場合にあたらなければ右規定が適用されないから、本件が右いずれであるかについて更に審理を尽くす必要がある。

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