遺留分減殺に対する価額弁償額確認訴訟の確認の利益【最判平成21年12月18日】

事案の概要

  1. A(大正9年2月19日生)は、平成16年12月7日に死亡した。上告人及び被上告人らは、Aの子である。
  2. Aは、平成10年12月7日、Aの遺産につき、遺産分割の方法を指定する公正証書遺言(以下「本件遺言」という。)をした。
  3. 被上告人らは、平成17年12月2日ころ、上告人に対し、遺留分減殺請求の意思表示をし、上告人は、遅くとも本件訴訟の提起をもって、被上告人らに対し、本件遺言による遺産分割の方法の指定が被上告人らの遺留分を侵害するものである場合は民法1041条所定の価額を弁償する旨の意思表示をした。
  4. 被上告人らは、上告人に対し、遺留分減殺に基づく目的物の返還請求も価額弁償請求もいまだ行っていない。
  5. 本件訴訟の訴状には、請求の趣旨として、〈1〉被上告人Y1はAの相続について上告人に対する遺留分減殺請求権を有しないことの確認を求める旨、〈2〉被上告人Y2がAの相続について上告人に対して有する遺留分減殺請求権は2770万3582円を超えて存在しないことの確認を求める旨の記載がある。

争点

  1. 「遺留分権利者から目的物の現物返還請求も価額弁償請求もされていない場合において、弁償すべき額につき当事者間に争いがあり、受遺者等が判決によってこれが確定されたときは速やかに支払う意思がある旨を表明して、弁償すべき額の確定を求める訴え」の確認の利益の有無

判旨

「遺留分権利者から目的物の現物返還請求も価額弁償請求もされていない場合において、弁償すべき額につき当事者間に争いがあり、受遺者等が判決によってこれが確定されたときは速やかに支払う意思がある旨を表明して、弁償すべき額の確定を求める訴え」の確認の利益の有無について

 ア 一般に、遺贈につき遺留分権利者が遺留分減殺請求権を行使すると、遺贈は遺留分を侵害する限度で失効し、受遺者が取得した権利は上記の限度で当然に減殺請求をした遺留分権利者に帰属するが、この場合、受遺者は、遺留分権利者に対し同人に帰属した遺贈の目的物を返還すべき義務を負うものの、民法1041条の規定により減殺を受けるべき限度において遺贈の目的物の価額を弁償し、又はその履行の提供をすることにより、目的物の返還義務を免れることができると解される(最高裁昭和53年(オ)第907号同54年7月10日第三小法廷判決・民集33巻5号562頁参照)。これは、特定の遺産を特定の相続人に相続させる旨の遺言による遺産分割の方法の指定が遺留分減殺の対象となる本件のような場合においても異ならない(以下、受遺者と上記の特定の相続人を併せて「受遺者等」という。)。
 そうすると、遺留分権利者が受遺者等に対して遺留分減殺請求権を行使したが、いまだ価額弁償請求権を確定的に取得していない段階においては、受遺者等は、遺留分権利者に帰属した目的物の価額を弁償し、又はその履行の提供をすることを解除条件として、上記目的物の返還義務を負うものということができ、このような解除条件付きの義務の内容は、条件の内容を含めて現在の法律関係というに妨げなく、確認の対象としての適格に欠けるところはないというべきである。
 イ 遺留分減殺請求を受けた受遺者等が民法1041条所定の価額を弁償し、又はその履行の提供をして目的物の返還義務を免れたいと考えたとしても、弁償すべき額につき関係当事者間に争いがあるときには、遺留分算定の基礎となる遺産の範囲、遺留分権利者に帰属した持分割合及びその価額を確定するためには、裁判等の手続において厳密な検討を加えなくてはならないのが通常であり、弁償すべき額についての裁判所の判断なくしては、受遺者等が自ら上記価額を弁償し、又はその履行の提供をして遺留分減殺に基づく目的物の返還義務を免れることが事実上不可能となりかねないことは容易に想定されるところである。弁償すべき額が裁判所の判断により確定されることは、上記のような受遺者等の法律上の地位に現に生じている不安定な状況を除去するために有効、適切であり、受遺者等において遺留分減殺に係る目的物を返還することと選択的に価額弁償をすることを認めた民法1041条の規定の趣旨にも沿うものである。
 そして、受遺者等が弁償すべき額が判決によって確定されたときはこれを速やかに支払う意思がある旨を表明して、上記の額の確定を求める訴えを提起した場合には、受遺者等がおよそ価額を弁償する能力を有しないなどの特段の事情がない限り、通常は上記判決確定後速やかに価額弁償がされることが期待できるし、他方、遺留分権利者においては、速やかに目的物の現物返還請求権又は価額弁償請求権を自ら行使することにより、上記訴えに係る訴訟の口頭弁論終結の時と現実に価額の弁償がされる時との間に隔たりが生じるのを防ぐことができるのであるから、価額弁償における価額算定の基準時は現実に弁償がされる時であること(最高裁昭和50年(オ)第920号同51年8月30日第二小法廷判決・民集30巻7号768頁参照)を考慮しても、上記訴えに係る訴訟において、この時に最も接着した時点である事実審の口頭弁論終結の時を基準として、その額を確定する利益が否定されるものではない。
 ウ 以上によれば、遺留分権利者から遺留分減殺請求を受けた受遺者等が、民法1041条所定の価額を弁償する旨の意思表示をしたが、遺留分権利者から目的物の現物返還請求も価額弁償請求もされていない場合において、弁償すべき額につき当事者間に争いがあり、受遺者等が判決によってこれが確定されたときは速やかに支払う意思がある旨を表明して、弁償すべき額の確定を求める訴えを提起したときは、受遺者等においておよそ価額を弁償する能力を有しないなどの特段の事情がない限り、上記訴えには確認の利益があるというべきである。

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