持戻免除の意思表示がある場合に遺留分算定の基礎財産の算入すべきか【大阪高判平成11年6月8日】

事案の概要

  1. aは、平成元年二月aの全財産を控訴人に贈与する旨の自筆証書遺言をし、平成四年八月死亡した。aの相続人は、aの子である控訴人及び被控訴人らである。そこで、被控訴人らは控訴人に対し、遺留分減殺の意思表示をした上、本訴で遺留分減殺を請求した。
  2. aの遺産は、不動産、預金である。aは、生前、いずれも生計の資本として、控訴人、被控訴人らに対し、次のとおり贈与していた。
      ① aは昭和六三年五月控訴人に対し、農地の所有権及び小作権を贈与した。
      ② aは昭和四三年頃被控訴人eに対し、土地建物を贈与した。
      ③ aは、昭和四三年から昭和四五年にかけて、被控訴人bに対し、土地建物を贈与した。
      ④ aは昭和五〇年頃被控訴人cに対し、川崎製鉄の株式二万株を贈与した。
  3. aは、控訴人に対する農地の生前贈与について、持戻免除の意思表示をしていた。

争点

  1. 持戻免除の意思表示がある場合に遺留分算定の基礎財産の算入すべきか

判旨

持戻免除の意思表示がある場合に遺留分算定の基礎財産の算入すべきかについて

 1 被相続人が特別受益の持戻規定(民法九〇三条一、二項)と異なる意思表示(持戻免除)をしたときは、遺留分規定に反しない範囲内でその効力を有する、と定められている(民法九〇三条三項)。これが遺留分の基礎財産算入に準用される場合、どのように考えるべきかが問題となる。
  すなわち、被控訴人ら主張のように、共同相続人に対する贈与(特別受益)について、被相続人の持戻免除の意思表示がある場合にも、これを考慮することなく、無制限に遺留分算定の基礎財産に算入すべきかである。控訴人は、被相続人の持戻免除の意思表示がある場合には、第三者に対する贈与(民法一〇三〇条)と同じく、相続開始前一年内になされた贈与、もしくは当事者双方に加害の認識のある贈与に限り、遺留分算定の基礎財産に算入すべきであるという。
  2 これは、民法九〇三条が遺留分に準用されたとき、同条三項をどう解すべきかにかかっている。この問題について、持戻免除は遺留分算定の基礎財産の算入には効力を有する余地はないと考える。その理由はこうである。
  民法九〇三条三項は、持戻免除の意思表示が遺留分規定に反しない範囲内でその効力を有する旨を規定している。しかし、これを準用し遺留分算定の基礎財産の算出を行う場合に、贈与の価額の持戻しをした場合の遺留分と、持戻免除を認め持戻しをしない場合の遺留分とを比較すれば、必ず前者が後者を上回り、遺留分の額を定める民法一〇二八条に反することは明らかである。また、そもそも、遺留分の規定は被相続人の処分の自由を制限するものであるし、遺留分算定のために持戻しを行うのに、これを行わない場合の遺留分に反しないかを問うのは、同義反覆的な矛盾である。それ故、民法九〇三条三項の遺留分規定の範囲内で、遺留分の基礎財産を算定するための持戻しを免除することはできないから、持戻免除の意思表示には同条三項によりその効力を有することはない。
  したがって、被相続人が持戻免除の意思表示をした場合に、その意思に従い持戻を免除すべきことを民法九〇三条三項が規定しているが、それは相続分に関する問題で、遺留分の基礎財産の算定には影響しないといえる。また、このように解しないと、遺留分への準用でなく相続分を計算するうえでの本来の民法九〇三条三項が無意味となる。そうであるから、被相続人が民法九〇三条一項所定の贈与について持戻免除の意思表示をしていても、被相続人の意思には関係なく、右贈与を遺留分算定の基礎財産に算入すべきことになる。
  このように考えられるから、遺留分の基礎財産の算定の場合は、持戻免除の意思表示は無効としてこれを考慮することなく持戻しを行い、民法九〇三条一項所定の贈与の価額を加算すべきである。したがって、持戻免除の意思表示がある場合にも、それは同条三項に照らし無効で、民法九〇三条の準用がその効力を失わないから、同法一〇三〇条のみの贈与の加算に限定される理由はない。
  なお、民法九〇三条所定の婚姻、養子縁組、生計の資本のための贈与でない共同相続人の受けた贈与の場合には、同法一〇三〇条による加算を行うべきであると考える。

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