遺留分減殺請求権が債権者代位の目的となるか【最判平成13年11月22日】

事案の概要

  1. 本件は、遺言によって被上告人が相続すべきものとされた不動産につき、当該遺言で相続分のないものとされた相続人に対して貸金債権を有する上告人が、当該相続人に代位して法定相続分に従った共同相続登記を経由した上、当該相続人の持分に対する強制競売を申し立て、これに対する差押えがされたところ、被上告人がこの強制執行の排除を求めて提起した第三者異議訴訟である。上告人は、上記債権を保全するため、当該相続人に代位して遺留分減殺請求権を行使する旨の意思表示をし、その遺留分割合に相当する持分に対する限度で上記強制執行はなお効力を有すると主張した。
  2. 債務者乙山三郎の父乙山松夫(明治三五年三月生まれ)は、被上告人の現在の住所地で農業を営み、本件土地及び居宅等そのほか多数の農地を所有していた。乙山松夫には、妻花子及び子として六人の女子と四人の男子(二男二郎、三男三郎(昭和一四年四月生まれ)、四男四郎、五男被上告人(昭和二三年四月生まれ))があった。右のような状況を踏まえて、松夫(当時七四歳)は、昭和五一年五月八日、本件土地、居宅等及び多数の農地を五男の被上告人に相続させ、田二筆を四男乙山四郎に相続させる旨の公正証書遺言をした。
  3. 上告人は、金融業を営む者であるが、昭和五六年七月六日、当時スーパーマーケットを経営していた乙山三郎に対し、三〇万円を弁済期同年七月二七日、利息日歩一五銭、遅延損害金日歩二〇銭の約定で貸し付けた。上告人は、乙山三郎を被告として、足立簡易裁判所に貸金請求訴訟を提起し(昭和六一年(ハ)第四六三号)、三郎が口頭弁論期日に出頭しなかったことから上告人の主張事実を自白したものとみなされ、昭和六二年二月一九日、三郎が上告人に対し三〇万円及びこれに対する昭和五六年七月二八日から支払済みまで年三割六分の割合による遅延損害金を支払うべき旨の判決がされた。
  4. 乙山松夫は、平成八年八月一〇日、九四歳で死亡した(妻花子は、松夫より先の平成二年六月に死亡していた。)。現在まで、松夫の子のうち遺留分減殺請求権を行使した者はいないとみられる。
  5. 上告人は、平成八年、時効中断のため再度、東京簡易裁判所に訴えを提起し(平成八年(ハ)第一九八〇号)、前と同趣旨の判決を得た。上告人は、右判決に基づいて強制執行をすべく、平成九年一月一〇日、三郎に代位して、本件土地につき、相続を原因とし、共有者を一〇名の子とする所有権移転登記をした上、本件土地について浦和地方裁判所越谷支部に強制執行の申立てをし、同支部は平成九年一月二一日強制執行開始決定をし、翌二二日受付で乙山三郎の持分一〇分の一について差押登記がされた。これに対し、被上告人は、同年三月五日、本件訴訟を提起し、併せて、強制執行停止の申立てをし、停止決定を得た。
  6. 上告人は、原審の平成九年六月一〇日付けの準備書面中に、乙山三郎に代位して被上告人に対し遺留分減殺請求の意思表示をする旨を記載し、右準備書面は、同年六月一九日の原審口頭弁論期日の前に被上告人代理人に交付され、右口頭弁論期日に陳述された。

争点

  1. 遺留分減殺請求権が債権者代位の目的となるか

判旨

遺留分減殺請求権が債権者代位の目的となるかについて

 遺留分減殺請求権は、遺留分権利者が、これを第三者に譲渡するなど、権利行使の確定的意思を有することを外部に表明したと認められる特段の事情がある場合を除き、債権者代位の目的とすることができないと解するのが相当である。その理由は次のとおりである。
 遺留分制度は、被相続人の財産処分の自由と身分関係を背景とした相続人の諸利益との調整を図るものである。民法は、被相続人の財産処分の自由を尊重して、遺留分を侵害する遺言について、いったんその意思どおりの効果を生じさせるものとした上、これを覆して侵害された遺留分を回復するかどうかを、専ら遺留分権利者の自律的決定にゆだねたものということができる(1031条、1043条参照)。そうすると、遺留分減殺請求権は、前記特段の事情がある場合を除き、行使上の一身専属性を有すると解するのが相当であり、民法423条1項ただし書にいう「債務者ノ一身ニ専属スル権利」に当たるというべきであって、遺留分権利者以外の者が、遺留分権利者の減殺請求権行使の意思決定に介入することは許されないと解するのが相当である。民法1031条が、遺留分権利者の承継人にも遺留分減殺請求権を認めていることは、この権利がいわゆる帰属上の一身専属性を有しないことを示すものにすぎず、上記のように解する妨げとはならない。なお、債務者たる相続人が将来遺産を相続するか否かは、相続開始時の遺産の有無や相続の放棄によって左右される極めて不確実な事柄であり、相続人の債権者は、これを共同担保として期待すべきではないから、このように解しても債権者を不当に害するものとはいえない。

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