遺留分減殺請求があっても受贈者に取得時効が認められるか【最判平成11年6月24日】

事案の概要

  1. 原告らと被告本田秀雄は、いずれも本田菊五郎とその妻はつの子らであり、被告本田慎一は、被告秀雄の子である。
  2. 菊五郎(明治三三年一一月一二日生)は平成二年一月二四日死亡した。菊五郎の相続人は、その妻亡はつ(昭和三九年六月一八日死亡)との間にもうけた湊喜代子、被告本田秀雄、原告新井信子、同五十嵐美代子、同本田良夫、同錢谷久能、同赤澤冨美子、本田勝蔵、原告中川悦子、同本田秀治、同難波慶子及び同松岡久子(右一二名の法定相続分は各一三分の一)のほか、亡本田俊夫(昭和六三年一〇月七日死亡)の代襲相続人である本田邦博、石崎美幸及び同大上千恵子(右三名の法定相続分は各三九分の一)である。
  3. 被相続人は、もと物件目録1ないし11記載の不動産(本件物件1ないし11)を所有していた。
  4. 被相続人は、昭和五一年一一月一二日本件物件1を被告慎一に、本件物件2を被告秀雄に、それぞれ贈与した。
  5. 被相続人は、昭和五一年一一月一八日本件物件3、5ないし11の持分四分の一を本田とき(被告秀雄の妻)に贈与し、次いで昭和五二年一月一八日右各物件の残り持分につき被告秀雄、同慎一及び本田ときにそれぞれ持分四分の一ずつ贈与した。
  6. 被相続人は、本件物件4を被告秀雄に相続させる旨の遺言をした(乙三〇)。
  7. 本田ときは昭和五五年一〇月三〇日死亡し、本件物件3、5ないし11の本田ときの持分四分の二は、被告慎一(ときの子)が相続により取得した。
  8. 原告らは、被告らに対し、平成二年一二月一九日遺留分減殺請求の意思表示をした(甲一四の一、二の各1、2)。

争点

  1. 受贈者が遺留分減殺請求の対象となる贈与の目的物を長期にわたって占有していた場合に取得時効が成立するか

判旨

受贈者が遺留分減殺請求の対象となる贈与の目的物を長期にわたって占有していた場合に取得時効が成立するかについて

被相続人がした贈与が遺留分減殺の対象としての要件を満たす場合には、遺留分権利者の減殺請求により、贈与は遺留分を侵害する限度において失効し、受贈者が取得した権利は右の限度で当然に右遺留分権利者に帰属するに至るものであり(最高裁昭和四〇年(オ)第一〇八四号同四一年七月一四日第一小法廷判決・民集二〇巻六号一一八三頁、最高裁昭和五〇年(オ)第九二〇号同五一年八月三〇日第二小法廷判決・民集三〇巻七号七六八頁)、受贈者が、右贈与に基づいて目的物の占有を取得し、民法一六二条所定の期間、平穏かつ公然にこれを継続し、取得時効を援用したとしても、それによって、遺留分権利者への権利の帰属が妨げられるものではないと解するのが相当である。けだし、民法は、遺留分減殺によって法的安定が害されることに対し一定の配慮をしながら(一〇三〇条前段、一〇三五条、一〇四二条等)、遺留分減殺の対象としての要件を満たす贈与については、それが減殺請求の何年前にされたものであるかを問わず、減殺の対象となるものとしていること、前記のような占有を継続した受贈者が贈与の目的物を時効取得し、減殺請求によっても受贈者が取得した権利が遺留分権利者に帰属することがないとするならば、遺留分を侵害する贈与がされてから被相続人が死亡するまでに時効期間が経過した場合には、遺留分権利者は、取得時効を中断する法的手段のないまま、遺留分に相当する権利を取得できない結果となることなどにかんがみると、遺留分減殺の対象としての要件を満たす贈与の受贈者は、減殺請求がされれば、贈与から減殺請求までに時効期間が経過したとしても、自己が取得した権利が遺留分を侵害する限度で遺留分権利者に帰属することを容認すべきであるとするのが、民法の趣旨であると解されるからである。

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