被相続人が相続開始の時に債務を有していた場合の遺留分の額【最判平成8年11月26日】

事案の概要

  1. Aは、平成二年六月二九日、すべての財産を上告人に包括して遺贈する旨遺言した。
  2. Aは、平成二年七月七日死亡した。同人の法定相続人は、妻である被上告人B並びに子である被上告人C、同D、上告人及びEである。
  3. Aは、相続開始の時において、第一審判決別紙物件目録の本件不動産の項の一ないし二九記載の不動産(以下「本件不動産一」などという。)及び同目録の売却済み不動産の項の(一)、(二)記載の不動産(以下「売却済み不動産(一)」などという。)を所有していた。
  4. 被上告人らは、上告人に対し、平成三年一月二三日到達の書面をもって遺留分減殺請求権を行使する旨の意思表示をした。
  5. 平成二年一二月一八日、本件不動産六ないし八につき、平成三年二月七日、本件不動産二、五及び二八につき、それぞれ相続を登記原因として上告人に所有権移転登記がされ、また、同日、本件不動産二九につき上告人を所有者とする所有権保存登記がされた。
  6. 上告人は、被上告人らから遺留分減殺請求権を行使する旨の意思表示を受けた後、同人らの承諾を得ずに、売却済み不動産(一)を三億二七三二万〇四〇〇円で、同(二)を七二三七万五〇〇〇円で、それぞれ第三者に売り渡し、その旨の所有権移転登記を経由した。
  7. 上告人は、相続債務等を支払ったと主張している。

争点

  1. 被相続人が相続開始の時に債務を有していた場合の遺留分の額

判旨

被相続人が相続開始の時に債務を有していた場合の遺留分の額について

被相続人が相続開始の時に債務を有していた場合の遺留分の額は、民法一〇二九条、一〇三〇条、一〇四四条に従って、被相続人が相続開始の時に有していた財産全体の価額にその贈与した財産の価額を加え、その中から債務の全額を控除して遺留分算定の基礎となる財産額を確定し、それに同法一〇二八条所定の遺留分の割合を乗じ、複数の遺留分権利者がいる場合は更に遺留分権利者それぞれの法定相続分の割合を乗じ、遺留分権利者がいわゆる特別受益財産を得ているときはその価額を控除して算定すべきものであり、遺留分の侵害額は、このようにして算定した遺留分の額から、遺留分権利者が相続によって得た財産がある場合はその額を控除し、同人が負担すべき相続債務がある場合はその額を加算して算定するものである。被上告人らは、遺留分減殺請求権を行使したことにより、本件不動産一ないし二九につき、右の方法により算定された遺留分の侵害額を減殺の対象であるAの全相続財産の相続開始時の価額の総和で除して得た割合の持分を当然に取得したものである。この遺留分算定の方法は、相続開始後に上告人が相続債務を単独で弁済し、これを消滅させたとしても、また、これにより上告人が被上告人らに対して有するに至った求償権と被上告人らが上告人に対して有する損害賠償請求権とを相殺した結果、右求償権が全部消滅したとしても、変わるものではない。

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