遺留分減殺請求について受遺者が価額弁償を行った場合に所得税法五九条一項一号にいう遺贈に該当するか【最判平成4年11月16日】

事案の概要

  1. 中塚ヒサは、本件土地を有限会社柿木荘に遺贈した。同人の死亡時の本件土地の価額は一億〇六三一万六九七六円である。
  2. 上告人中塚和子、中塚昭子(上告人中塚史朗は昭子の承継人である。)、中塚孝子及び中塚鐡也は、昭和五八年中に、各人の有する各一四分の一の遺留分に基づき、それぞれ遺留分減殺請求をした。
  3. 上告人中塚和子及び中塚昭子は同年一二月二一日価額弁償として各五〇〇万円を柿木荘から受領し、中塚昭子は昭和五九年五月一七日付けの契約に基づき価額弁償として一二〇〇万円を柿木荘から受領し、中塚鐡也は昭和五九年六月二二日に成立した調停において価額弁償として一八〇〇万円を柿木荘から受領することとなった。
  4. 被上告人は昭和六〇年九月三〇日、本件土地の柿木荘に対する遺贈は所得税法五九条一項一号の遺贈に該当し、中塚ヒサ死亡時の本件土地の価額に相当する金額により本件土地の譲渡があったものとみなされるとして、所得税及び過少申告加算税を賦課する更正を行った。

争点

  1. 不動産の遺贈に対する遺留分減殺請求について受遺者が価額弁償を行った場合、所得税法五九条一項一号にいう遺贈に該当するか

判旨

不動産の遺贈に対する遺留分減殺請求について受遺者が価額弁償を行った場合、所得税法五九条一項一号にいう遺贈に該当するかについて

本件土地の遺贈に対する遺留分減殺請求について、受遺者が価額による弁償を行ったことにより、結局、本件土地が遺贈により被相続人から受遺者に譲渡されたという事実には何ら変動がないこととなり、したがって、右遺留分減殺請求が遺贈による本件土地に係る被相続人の譲渡所得に何ら影響を及ぼさないこととなるとした原審の判断は、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。

裁判官大堀誠一の補足意見について

 私は、多数意見に同調するものであるが、裁判官味村治の反対意見にかんがみ、そこで指摘されているいくつかの問題点について、多数意見の考え方を補足して説明しておきたい。
 一 遺贈に対する遺留分減殺請求について受遺者が価額による弁償を行う場合、その価額弁償における目的物の価額算定の基準時は、味村裁判官の意見で指摘されているとおり、現実に弁償がされる時と解すべきである。このことからすると、この場合には、法は価額弁償時において遺贈の目的と弁償金とが等価で交換されるということを予定しているのであって、遺贈の目的は、相続開始時に被相続人から受遺者に移転するのではなく、価額弁償の時点で遺留分権利者から受遺者に移転するとする考え方にも理由がない訳ではない。しかし、右のような考え方よりも、遺留分の減殺請求がされたことによりいったん失効した遺贈の効果が、価額弁償によって再度相続開始時にまで遡って復活し、遺贈の目的が被相続人から受遺者に直接移転することになるとする考え方の方が、価額弁償の効果について定めた民法一〇四一条一項の規定の文言にも、遺贈の遺言をした被相続人の意思にもよく合致し、また、法律関係を簡明に処理し得るという点でも優れているものといえよう。価額弁償の価額算定の基準時の点については、公平の理念に基づく実質的な配慮から、特に現実の価額弁償時の価額をもって弁償を行わせるべきこととしたものと考えることで足りるものというべきであろう。
 二 このように、価額弁償によって遺贈の効果が再度復活するものと解する以上、この場合の遺贈が所得税法五九条一項一号にいう遺贈に該当することは明らかである。また、価額弁償金の授受は遺留分権利者と受遺者との間で行われるにすぎず、譲渡所得税の納税義務者となる被相続人と受遺者との間における遺贈による資産の移転自体は何ら対価の支払を伴うものではないのである。
 なお、味村裁判官の意見で指摘されているとおり、当裁判所の判例は、同法六〇条一項一号にいう贈与には贈与者に経済的な利益を生じさせる負担付贈与を含まないとしている(最高裁昭和六二年(行ツ)第一四二号同六三年七月一九日第三小法廷判決・裁判集民事一五四号四四三頁参照)が、右規定は、個人が贈与により取得した資産を譲渡した場合にはその者が引き続きこれを所有していたものとみなすこととして、譲渡所得税の課税の繰延べを認めるものであり、右判示は、贈与者に経済的な利益を生じさせる負担付贈与が行われた場合には、贈与者について譲渡所得税の課税が行われることとなり、右の課税の繰延べを認める必要がないという実質的考慮をその理由とするものである。これに対し、同法五九条一項一号に規定する法人に対する遺贈については、個人に対する遺贈と異なり、そもそも譲渡所得に対する課税の繰延べをすることができない場合であり、同号の規定がこの場合に遺贈のあった時における価額に相当する金額によりその資産の譲渡があったものとみなすこととしているのは、専ら、その時点までの資産の値上がり益を対象として課税するという譲渡所得課税の趣旨に照らして、その適正な課税価格を算出するためであるから、同号にいう遺贈を同法六〇条一項一号にいう遺贈と同趣旨に解すべきいわれはないものというべきである。
 三 多数意見の考え方は、相続税との関係では、価額弁償が行われた場合であっても、本件の場合のように法人が受遺者である場合には、相続税法一条一号の規定により受遺者が相続税の納税義務を負うことはなく、この遺贈による収益に対しては法人税が課されることとなる(この場合、法人の支出した右価額弁償金の額は、法人税の所得計算上その支払の時の損金に算入されることとなる。)とするものであり、他方、前記のように遺留分減殺請求の効果が価額弁償によって遡及的に失われることとなる以上、遺留分権利者たる相続人も、その減殺請求の対象となった相続財産について相続税の納税義務を負うものではなく、受遺者から取得した価額弁償金についてのみ、これを相続によって取得したものとして、相続税の納税義務を負うとするものである。したがって、味村裁判官の意見がいうように、同一の財産が別人によって二重に取得されるという事態を生ずるものでないことは明らかである。この場合、遺贈者である被相続人には、遺贈の目的となった資産について生じた譲渡所得に対する課税が行われることとなるが、これは、その時点までに当該資産について生じていた資産の値上がり益を対象として課税が行われたというにすぎないものであり、遺贈によって資産を取得した法人に対してその資産取得による収益を対象として法人税の課税が行われることとの関係で、課税が重複して行われるものでないことはいうまでもない。
 もっとも、遺留分権利者が受遺者から受領した価額弁償金が本来被相続人の財産には含まれていなかったことは確かであり、その額には相続時から価額弁償時までの資産の値上がり益も含まれていることにはなるが、相続財産についていわゆる代償分割の方法による遺産分割が行われた場合には、交付を受けた代償財産に対して相続税が課されることとなるものとして扱われているのであり、これと同様に、この価額弁償金について相続税を課することを認めて差し支えないものと考える。

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