遺留分減殺請求権行使後の目的物返還請求権等は民法一〇四二条の消滅時効に服するか【最判昭和57年3月4日】

事案の概要

  1. 原告は訴外亡青山政二(以下政二という。)、同亡青山かま(以下かまという。)の二男であり、被告はその間の長男であつて、他に政二、かま間の子には長女訴外鬼頭時子、三男訴外柘植正道がある。
  2. 政二は昭和四七年四月八日死亡し、その相続人は、配偶者であるかまおよびいずれも直系卑属である原、被告ら前項記載の四名の合計五名であつた。またかまは同年一一月二三日死亡し、同人の相続人は、いずれも直系卑属である原、被告ら前項記載の四名であつた。
  3. 本件第一ないし第三の不動産は、もと政二が所有していたところ、同人は昭和四六年五月二四日、これら不動産について持分三分の二を被告に、持分三分の一をかまに、それぞれ遺贈する旨の遺言をなしていたので、同人の死亡により右土地のうち持分三分の二は被告が、残余の三分の一はかまが取得し、昭和四七年九月二六日その旨の登記を経由した。
  4. ところが、かまも昭和四七年一一月一五日、自己の右持分全部について、被告に遺贈する旨の遺言をなしていたので、同人の死亡により、右持分全部を被告が取得し、昭和四八年二月一三日その旨の登記を経由した。
  5. これに先立ち、原告は被告に対し政二の遺産について同人の遺言により遺留分を侵害されたとして減殺請求の意思表示をなし、前件調停事件として調停が行なわれた結果、被告は原告に対し、被告が全部を取得することとなつた本件第二の土地の所有権を原告に移転して政二の遺贈による遺留分減殺に対する返還とし、昭和四八年五月一一日その旨の登記が経由された。
  6. 原告は、遺留分としてかまの財産の八分の一の額を受けるべきである、そしてかまが被告に遺贈した本件第一ないし第三の土地の持分三分の一は、かまの全財産であり、かまには負債はなかつたから、結局原告の遺留分は、本件第一ないし第三の土地につきかまの有していた右持分の八分の一にあたる右土地の二四分の一の持分となる、として、本件第一の土地について遺留分減殺を原因として二四分の一の持分移転登記手続を求めるなどした。
  7. 被告は、民法一〇四二条は減殺請求権とその行使によつて生ずる返還請求権を一体として一年の消滅時効にかかることを規定したものと解すべきところ、原告が本件遺贈を知つたのは、前記のとおり昭和四七年一一月二三日であり仮にそうでないとしても昭和四八年四月一三日ころであり、従つて右の時期から一年の経過により、減殺請求権の行使により原告に帰属した返還請求権は時効により消滅したと主張した。

争点

  1. 遺留分減殺請求権行使後の目的物返還請求権等は民法一〇四二条の消滅時効に服するか

判旨

遺留分減殺請求権行使後の目的物返還請求権等は民法一〇四二条の消滅時効に服するかについて

 民法一〇三一条所定の遺留分減殺請求権は形成権であつて、その行使により贈与又は遺贈は遺留分を侵害する限度において失効し、受贈者又は受遺者が取得した権利は右の限度で当然に遺留分権利者に帰属するものと解すべきものであることは、当裁判所の判例とするところであり(最高裁昭和四〇年(オ)第一〇八四号同四一年七月一四日第一小法廷判決・民集二〇巻六号一一八三頁、最高裁昭和五〇年(オ)第九二〇号同五一年八月三〇日第二小法廷判決・民集三〇巻七号七六八頁)、したがつて、遺留分減殺請求に関する消滅時効について特別の定めをした同法一〇四二条にいう「減殺の請求権」は、右の形成権である減殺請求権そのものを指し、右権利行使の効果として生じた法律関係に基づく目的物の返還請求権等をもこれに含ましめて同条所定の特別の消滅時効に服せしめることとしたものではない、と解するのが相当である。

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