遺留分権利者の目的物の返還請求権は価額弁償の抗弁があった場合いつ消滅するか【最判昭和54年7月10日】

事案の概要

  1. 本件建物は、訴外寺岡千代の所有であつたが、同女は、昭和四六年八月六日死亡した。
  2. 原告は、寺岡千代の長女で唯一の相続人であり、被告は同女の甥であるが、昭和二九年三月三日大阪法務局所属公証人堀部浅役場において、右寺岡千代が「原告に対し現金一五万円を、被告に対し本件建物をそれぞれ遺贈する。」旨の遺言をしたとしてその趣旨の公正証書遺言書が作成されている。
  3. 被告は、右遺言に基いて、大阪法務局天王寺出張所昭和四七年三月一〇日受付第五五七五号をもつて昭和四六年八月六日付の遺贈を原因とする所有権移転登記手続を了している。
  4. 原告は寺岡千代の唯一の相続人であるから、同女の遺産である本件建物につき二分の一の遺留分を有する。そして、原告は訴状(昭和四七年六月一四日送達)により被告に対し遺留分減殺請求をなした
  5. 被告は昭和五三年三月一六日の本件口頭弁論期日において民法第一〇四一条第一項に基づき遺贈の目的物である本件建物の価額の二分の一の額を原告に弁償する旨の意思表示をしたから、右意思表示によつて被告の本件建物に対する持分権は消滅したと主張している。

争点

  1. 遺留分権利者の目的物の返還請求権は価額弁償の抗弁があった場合いつ消滅するか

判旨

遺留分権利者の目的物の返還請求権は価額弁償の抗弁があった場合いつ消滅するかについて

遺留分権利者が民法一〇三一条の規定に基づき遺贈の減殺を請求した場合において、受遺者が減殺を受けるべき限度において遺贈の目的の価額を遺留分権利者に弁償して返還の義務を免れうることは、同法一〇四一条により明らかであるところ、本件のように特定物の遺贈につき履行がされた場合において右規定により受遺者が返還の義務を免れる効果を生ずるためには、受遺者において遺留分権利者に対し価額の弁償を現実に履行し又は価額の弁償のための弁済の提供をしなければならず、単に価額の弁償をすべき旨の意思表示をしただけでは足りないもの、と解するのが相当である。けだし、右のような場合に単に弁償の意思表示をしたのみで受遺者をして返還の義務を免れさせるものとすることは、同条一項の規定の体裁に必ずしも合うものではないぱかりでなく、遺留分権利者に対し右価額を確実に手中に収める道を保障しないまま減殺の請求の対象とされた目的の受遺者への帰属の効果を確定する結果となり、遺留分権利者と受遺者との間の権利の調整上公平を失し、ひいては遺留分の制度を設けた法意にそわないこととなるものというべきであるからである。

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