民法1023条2項の遺言の抵触の解釈【最判昭和56年11月13日】

事案の概要

  1. A(明治二七年三月一〇日生)は、大正八年二月一二日B(明治三三年七月二四日生)と婚姻したが、Bとの間には実子はなく、Cとの間に出生した被上告人Dがただ一人の実子であつたが、同被上告人とは同居していなかつた。
  2. A夫婦は、昭和七年九月二八日Aの実弟Eと養子縁組したが、同人の妻とBとの折合いが悪く十数年後に別居し、また、昭和三五年六月二五日Eの子の被上告人Fと養子縁組したが、やはり同人の妻とBとの折合いが悪く数年後に別居した。その後A夫婦は、昭和四八年三月ころ実子である被上告人Dと同居したが、同人の妻とBとの折合いが悪く同年一〇月ころ別居した。
  3. ところで、その後Bが脳溢血で入院するということもあつたので、A夫婦は、終生老後の世話を託すべく、今度は妻Bの実家筋のB家から上告人らを養子として迎えることを希望した。これに対し、上告人らは当初難色を示したが、Aから「実子の被上告人Dには居住する家屋敷だけやれば十分であるから、もし上告人らが養子となりA夫婦を今後扶養してくれるならば、他の不動産を全部遺贈してもよい」との趣旨の申出を受けたので、これを承諾し、昭和四八年一二月二二日A夫婦と養子縁組したうえ、同夫婦と同居し共同生活を営みつつその扶養をしていた。
  4. そして、Aは、前記の約旨にしたがい、同月二八日公正証書により、その所有する現金、預貯金全部を妻のBに遺贈し、不動産のうち市川市a丁目b番宅地三六・一三平方メートルを被上告人Dに遺贈するが、その余の不動産全部を上告人両名に持分各二分の一として遺贈する旨の本件遺言をした。
  5. ところが、昭和四九年一〇月、上告人G及び実兄の訴外Hが経営していた加根与商事株式会社が倒産したが、そのことにより上告人G及び訴外HがAに無断でA所有の不動産について右会社の永代信用金庫に対する四億円の債務担保のため根抵当権設定等の登記をしていることが発覚した。そして、Aがこのことを知つて激怒したため、上告人G及び訴外Hは、六か月以内に右根抵当権設定登記等を抹消し、かつ、Aから右会社が借用していた一五〇〇万円を返還することを約し、その旨の念書をAに差し入れたが、右約束を履行するに至らなかつた。
  6. そこで、A夫婦は、上告人らに対し不信の念を深くして、上告人らに対し養子縁組を解消したい旨申し入れたところ、上告人らもこれを承諾したので、昭和五〇年八月二六日A夫婦と上告人らとの間で協議離縁が成立し、上告人らはA夫婦と別居した。
  7. 上告人らは、別居後A夫婦を扶養せず、被上告人D夫婦がA夫婦の身の廻りの世話をしていたが、Aは、昭和五二年一月八日死亡し、Bも同年二月一日死亡した。

争点

  1. 民法1023条2項の遺言の抵触の解釈
  2. 上記事案において遺言は抵触したものといえるか

判旨

民法1023条2項の遺言の抵触の解釈について

民法一〇二三条一項は、前の遺言と後の遺言と抵触するときは、その抵触する部分については、後の遺言で前の遺言を取り消したものとみなす旨定め、同条二項は、遺言と遺言後の生前処分その他の法律行為と抵触する場合にこれを準用する旨定めているが、その法意は、遺言者がした生前処分に表示された遺言者の最終意思を重んずるにあることはいうまでもないから、同条二項にいう抵触とは、単に、後の生前処分を実現しようとするときには前の遺言の執行が客観的に不能となるような場合にのみにとどまらず、諸般の事情より観察して後の生前処分が前の遺言と両立せしめない趣旨のもとにされたことが明らかである場合をも包含するものと解するのが相当である。

上記事案において遺言は抵触したものといえるかについて

原審の適法に確定した前記一の事実関係によれば、Aは、上告人らから終生扶養を受けることを前提として上告人らと養子縁組したうえその所有する不動産の大半を上告人らに遺贈する旨の本件遺言をしたが、その後上告人らに対し不信の念を深くして上告人らとの間で協議離縁し、法律上も事実上も上告人らから扶養を受けないことにしたというのであるから、右協議離縁は前に本件遺言によりされた遺贈と両立せしめない趣旨のもとにされたものというべきであり、したがつて、本件遺贈は後の協議離縁と抵触するものとして前示民法の規定により取り消されたものとみなさざるをえない筋合いである。

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