財産目録を調製せず一部の相続人の利益のために行動するなどした場合、遺言執行者に解任事由があるか【東京高決平成19年10月23日】

事案の概要

  1. 本件の遺言者である亡Gは、先に死亡したH(平成11年×月×日死亡)との間に、長女のI、長男の相手方D、二男の相手方E、三男の相手方Fの4人の子がいる。亡Gは、平成18年×月×日、Jと婚姻の届出をし、平成19年×月×日死亡した。
  2. 亡Gは、死亡に先立つ平成18年×月×日、○○法務局所属公証人○○○○作成に係る同年第××号遺言公正証書をもって、すべての財産を妻であるJに相続させる旨の遺言をし、併せて遺言執行者として抗告人らを指定した。なお、相手方ら及び長女Iは、平成19年×月×日ころ到達した内容証明郵便をもって、J及び抗告人らに対し、遺留分減殺の意思表示をした。
  3. 本件は、相手方Dが、抗告人らにおいて財産目録を調製等することなく、また、Jの利益のためにのみ行動するという偏頗性、不公平性が認められるとして、遺言執行者の任務を怠り、かつ、解任すべき正当な事由があるとして、その解任を求めた事案である。

争点

  1. 財産目録を調製せず一部の相続人の利益のために行動するなどした場合、遺言執行者に解任事由があるか

判旨

財産目録を調製せず一部の相続人の利益のために行動するなどした場合、遺言執行者に解任事由があるかについて

ア 任務懈怠について
 本件遺言書においては、相続財産として株式会社○○銀行等9つの金融機関に対する預貯金債権や金融資産のあることが明記されているが、前記のとおり、抗告人らは、相手方らから遺留分の減殺請求を受けた後になって、相手方らの了解を得ることなく、それらの大部分を払い戻したり名義変更の手続をしていることが認められるところ、上記預貯金等について、相手方らが、原審において、平成19年×月×日付け上申書(2)により上記預貯金等の管理方法など現在の事務処理状況を速やかに報告すべきであると主張し、同書面はそのころ抗告人Aに到達しているにもかかわらず、抗告人らが上記預貯金等の管理方法等について相手方らに報告ないし説明をした形跡はない。
 遺言執行者のする相続財産の管理については、委任に関する規定が準用されるから(民法1012条2項)、遺言執行者は、相続人に対し、請求があるときはいつでも事務処理状況を報告する義務があるのであって(同法645条)、この点に関して、上記の事実に照らすと、相手方らの主張するとおり、抗告人らに任務の懈怠があるというべきである。
 したがって、抗告人らには上記の点において任務懈怠があるといわざるを得ない。」
イ 偏頗性・不公平性について
〈1〉本件遺言書の内容は、亡Gのすべての財産を包括的にJに相続させるというものであるが、それを知った相手方らから、直ちに遺留分減殺の意思表示がされたところ、原審判が説示するとおり、遺留分を侵害された相続人(遺留分権利者)が減殺請求権を行使すると、遺贈は遺留分を侵害する限度において失効し、受遺者が取得した権利は遺留分を侵害する限度で当然に減殺請求をした遺留分権利者に帰属するのであって、例えば、遺産すべての包括遺贈に対して減殺請求権を行使した場合に遺留分権利者に帰属する権利は、遺産分割の対象となる相続財産としての性質を有しない(最判平成8年1月26日・民集50巻1号132頁参照)。本件においても、相手方らが遺留分減殺請求権を行使したことにより、亡Gのした上記の遺贈は、相手方らの遺留分を侵害する限度において失効し、Jが一旦取得した権利はその限度で当然に相手方らに帰属することになるのであって、本件相続財産は、Jと相手方らとの共有ないし準共有の状態にあるといえる。したがって、相手方らは、本件相続財産について、それぞれの遺留分の割合に相当する持分を有するものである。
〈2〉遺留分権利者の権利は遺言者の意思に優越するのであり(しかも、後記のとおり遺言者である亡Gは遺留分減殺請求のあり得べきことを想定していた。)、遺留分の減殺請求が適法にされた以上、その権利は当然に保護されるべきものであるから、遺言執行者としても、遺留分権利者の権利に配慮してその職務を遂行しなければならない。
 抗告人らにおいて、相手方らが遺留分減殺請求権を行使したことを認識しながら、相手方らの了解を得ることなく、それらの全部又は大部分の払戻しをしたり名義変更の手続をした行為は、相手方らの遺留分に関する権利を侵害するものであるといって差し支えないばかりか、一方的にJの利益のみに偏したものであることは疑いないのであって、遺言執行者として職務遂行の適正性、公平性を欠くものであるといわざるを得ない。
ウ 遺言者の意思との関係について
 遺言内容に照らしてみると、亡Gは、遺産分割や遺留分減殺の方法で相続財産を相続人らの実情に適う方法で分配することをあり得べきこととして想定し、遺言執行者の権限に相続人ら(本件相手方ら)に対する相続財産の引渡しを意識的に盛り込み、相続人間の不公平がないような分配、特にKを運営する長男である相手方Dへの配慮を遺言執行者にも期待していたということができる。また、抗告人らは、上記のとおり本件遺言書の原案を作成し、抗告人B、同Cは公正証書遺言の証人として立ち会っていたのであるから、このような遺言者の意思は十分認識していたということができる。そうしてみると、前記認定のとおり、抗告人らが、相続財産である預貯金等を相手方らの了解を得ずに、Jのために払い戻し、名義を変更したこと、そして、その現在の管理状況について相手方らに何らの報告、説明をしないまま放置していること、及びKに対して本件店舗建物の明渡しを求め、しかも訴訟まで提起するについてJの代理人として関与したことは、いずれも遺言者である亡Gの上記意思に悖ることが明らかで、遺言者に対する背信的な行為であると評価することができる。
エ 以上のとおりであって、抗告人らについては、任務懈怠があるほか遺言執行者から解任されるについて正当な事由があるというべきである。

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