相続債務の返済が遺言執行者の管理処分権に含まれるか【東京高判平成15年9月24日】

事案の概要

  1.  被控訴人は、平成2年3月27日、亡元子との間で、次の内容の保証委託契約を締結した。
    ア 亡元子は、被控訴人に対し、亡元子が住友銀行から借り入れる後記の借入金、利息、損害金その他一切の債務について、被控訴人が亡元子のために連帯保証することを委託する。
    イ 被控訴人が住友銀行に対し、上記委託に基づく保証債務を履行したときは、亡元子は求償金の全額を直ちに弁済する。
    ウ 亡元子は、求償金の支払を遅延したときは、代位弁済日の翌日から完済まで代位弁済額に対し、年14パーセントの割合(年365日の日割計算)による損害金を支払う。
  2.  亡元子は、平成2年3月29日、住友銀行から、次の条件で長期ローンを借り受けた。
    ア 借入金額   金3億8000万円
    イ 借入期間   264か月
    ウ 当初借入利率 年6.800%(ただし、変動金利)
    エ 返済方法   元金の返済は据置期間5年とし、平成7年5月2日から平成24年4月2日まで毎月2日に金314万7097円宛の月賦返済。
    オ 期限の利益の喪失 亡元子が返済を遅延し、住友銀行から書面により催促しても、次の返済日までに元利金(損害金を含む)を返済しなかったときには、亡元子は分割払いの期限の利益を失う。
    カ 損害金    年14%
  3.  亡元子は、平成8年3月4日、死亡した。亡杉山章、山口橘子、杉山晋、冨田紀子、平岡威一郎はその相続人である(なお、冨田紀子と平岡威一郎は平岡瑤子の代襲相続人である。)。
     控訴人は、亡元子の相続開始後、亡元子の遺言執行者に就任した。
  4. 住友銀行は、亡元子の相続人らが前記(2) の長期ローン契約に基づく債務の履行を平成8年3月分から延滞したため、同相続人らに対し、平成11年7月23日から同月26日にかけて到達した書面により、その債務の履行を督促した。
     亡元子の相続人らは、次の約定返済日である同年8月2日までに延滞している元利金の支払をせず、上記ローン契約に基づく債務について分割払いをの期限の利益を失った。
  5. 被控訴人は、住友銀行からの保証債務の履行請求に基づき、平成11年11月30日、同銀行に対し、上記ローン契約に基づく債務金3億0375万8741円(元金2億9945万7896円、利息及び損害金430万0845円)を代位弁済した。

争点

  1. 相続債務の返済が遺言執行者の管理処分権に含まれるか

判旨

について

 控訴人は、本件遺言においては、負債を特定の相続人に相続させる旨の文言しかなく、それ以上に負債を返済するための原資となる財産の売却に関する具体的指定文言がないから、これだけでは相続債務の返済は遺言執行者の管理処分権に含まれない旨主張する。
 確かに、負債額に見合う現預金が存在する場合は、相続債務の返済も容易であろうが、それが不足するときは、相続財産を適正に処分して、その処分代金の中から同債務の弁済を行わざるを得ず、売却物件の選択、処分価格の定め方、売却方法等をめぐって困難な事態が生ずることも予想される。しかしながら、遺言の中に相続債務を特定の相続人に相続させる旨の文言がある以上、遺言執行者にこれを執行するための処置を講ずべき権限及び義務があると解されるのであり、また、上記困難があるとしても不可能ではないといえるのであるから、控訴人の上記主張をもってしても、遺言執行者の当事者適格を否定する合理的根拠にはなり得ない。

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