遺言の無効が一見して明らかとはいえない場合に遺言執行者の選任が認められるか【東京高決平成9年3月17日】

事案の概要

  1. 抗告人は遺言者の実妹である。
     遺言者は、夫である大沢治(以下、「治」という。)との間に、昭和24年12月24日、長男大沢学(以下、「学」という。)を儲けたが、昭和30年11月21日届出で、学の親権者を治と定め、治と離婚した。
     遺言者の第1順位の相続人は学である。
  2. 抗告人が遺言者の自筆証書遺言書として検認を受けた書面(以下、「本件書面」という。)は、遺言者自筆のもので、罫線入り白色紙一枚の冒頭に、「譲渡証」と表題が付され、次いで、「高田英子(遺言者)所有の物件其の他のものは本人死亡の際は妹高田敏子(抗告人)に譲渡する」旨の本文が記載され、「昭和四十九年六月一九日午前二時二時分本人記す」との日時の記載とともに、末尾に「高田敏子様」宛の、「高田英子」名義の署名及び実印による押印があるものである。
  3. 本件書面は、昭和49年6月19日頃、遺言者から抗告人に対し、「私(遺言者)にもしものとき、貴女(抗告人)の老後の足しにと思いしたためました。無駄と思わず大切に保存しておいて下さい。」という旨の書面及び遺言者の自宅の鍵とともに茶封筒に同封されて郵送されてきた。
     抗告人は、その頃、右手紙を開封した。
  4. 遺言者は、平成7年9月28日死亡した。
     同年11月22日頃、抗告人が遺言者の死亡時の自宅に赴き、自宅内の金庫を開けると、日付の記載のない「遺言書」と題する書面、不動産権利書などが入っていた。
     右「遺言書」と題する書面には、「私の死後財産全部私の実妹高田敏子に遺贈します」旨の記載があった。
     なお、遺言書は、死亡の頃、長男である学とはほとんど交渉がなかった。
  5. 抗告人は、平成8年4月2日、富山家庭裁判所に対し、本件書面を遺言者の自筆証書による遺言書として、その検認を求める申立を行った。同事件は、同年5月7日、横浜家庭裁判所に移送され、同裁判所は、同年7月30日、本件書面につき遺言書の検認を行った。
  6. 抗告人は、平成8年4月2日、富山家庭裁判所に対し、本件書面に基き遺言執行者の選任申立を行った。

争点

  1. 遺言の無効が一見して明らかとはいえない場合に遺言執行者の選任が認められるか

判旨

遺言の無効が一見して明らかとはいえない場合に遺言執行者の選任が認められるかについて

 民法554条は、死因贈与につき遺贈に関する規定に従う旨規定している。
 このことは、遺贈が単独行為であり、死因贈与が契約であるとの一事をもって、民法554条の適用を排し、遺言執行者の選任を拒否することは相当ではないと解される。
 そうすると、受贈者である抗告人の、本件遺言執行者選任の申立は、記録上、その選任自体が不相当であるとか、必要性がないことが明らかであるなどの事情のない限り、理由があるものといわなければならない。
 この場合、後見的な役割を持つ家庭裁判所として、相続に関する紛争の予防や事案の円満な解決のために、遺言執行者の選任の相当性、必要性等につき検討を加えることが望ましい場合もあり得よう。

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