相続人が民法1013条に違反して遺贈目的物を不動産を処分した場合の効力【最判昭和62年4月23日】

事案の概要

  1. 本件不動産のうち(一)ないし(三)の土地は登記簿上藤田勘造の所有名義となつており、(四)の建物は登記簿上藤田憲治の所有名義となつており、いずれにも別紙根抵当権目録記載の根抵当権設定登記がなされているところ、昭和五六年七月二二日、被告の申立により、担保権の実行としての競売手続開始決定がなされ、債権者である被告のために差押がなされた(宇都宮地方裁判所昭和五六年(ケ)第一二一号)。
  2. 本件不動産は、もと藤田為吉の所有であつた。
  3. 本件建物は、本件土地とともに、為吉の死亡時においてその相続財産に属していた
  4. 為吉は、昭和四五年一〇月二一日付の遺言公正証書により、為吉所有の不動産全部を同人の四女である藤田モリ子、五女である原告藤田イト子に、持分はモリ子五分の四、イト子五分の一として遺贈する旨の遺言をした。
    昭和五二年七月一六日に為吉が死亡して右遺贈の効力が生じ、本件不動産は、モリ子、イト子の共有となつた。
    モリ子は昭和五八年四月二七日に死亡した。モリ子には配偶者及び子がなく、相続人は母藤田キミのみであり、同人がモリ子の地位を承継した。
  5. 勘造は、行方不明であつた長男徳一郎について、昭和五二年一〇月二一日、宇都宮家庭裁判所において不在者の財産管理人選任の手続を経た。そして、財産管理人に権限外の行為である遺産分割協議の許可を得させたうえ、勘造において遺産全部を取得し、徳一郎は相続分を放棄する旨の遺産分割協議書を作成した。
  6. 勘造は、右のような処理の後、昭和五三年一月九日に本件不動産のうち土地につき、相続を原因とする所有権移転登記をしたものである。
  7. 本件建物については、為吉の死亡後である昭和五二年九月六日に、勘造が自己名義で所有権保存登記をした。
  8. 昭和五三年一月二五日に前記1の根抵当権設定登記がなされた。

争点

  1. 受遺者は遺言執行者がある場合でも無効な登記の抹消登記手続請求ができるか
  2. 相続人が民法1013条に違反して遺贈目的物を不動産を処分した場合の効力

判旨

受遺者は遺言執行者がある場合でも無効な登記の抹消登記手続請求ができるかについて

 遺言者の所有に属する特定の不動産が遺贈された場合には、目的不動産の所有権は遺言者の死亡により遺言がその効力を生ずるのと同時に受遺者に移転するのであるから、受遺者は、遺言執行者がある場合でも、所有権に基づく妨害排除として、右不動産について相続人又は第三者のためにされた無効な登記の抹消登記手続を求めることができるものと解するのが相当である(最高裁昭和二八年(オ)第九四三号同三〇年五月一〇日第三小法廷判決・民集九巻六号六五七頁参照)。

相続人が民法1013条に違反して遺贈目的物を不動産を処分した場合の効力について

 民法一〇一二条一項が「遺言執行者は、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する。」と規定し、また、同法一〇一三条が「遺言執行者がある場合には、相続人は、相続財産の処分その他遺言の執行を妨げるべき行為をすることができない。」と規定しているのは、遺言者の意思を尊重すべきものとし、遺言執行者をして遺言の公正な実現を図らせる目的に出たものであり、右のような法の趣旨からすると、相続人が、同法一〇一三条の規定に違反して、遺贈の目的不動産を第三者に譲渡し又はこれに第三者のため抵当権を設定してその登記をしたとしても、相続人の右処分行為は無効であり、受遺者は、遺贈による目的不動産の所有権取得を登記なくして右処分行為の相手方たる第三者に対抗することができるものと解するのが相当である(大審院昭和四年(オ)第一六九五号同五年六月一六日判決・民集九巻五五〇頁参照)。そして、前示のような法の趣旨に照らすと、同条にいう「遺言執行者がある場合」とは、遺言執行者として指定された者が就職を承諾する前をも含むものと解するのが相当であるから、相続人による処分行為が遺言執行者として指定された者の就職の承諾前にされた場合であつても、右行為はその効力を生ずるに由ないものというべきである。

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