遺言により保険金受取人の変更をすることができるか【東京高判平成10年3月25日】

事案の概要

  1. 被控訴人は、弁護士であり、亡武田道子が平成八年七月一二日に行った秘密証書遺言により遺言執行者に選任され、同年八月一五日に同人が死亡したことにより遺言執行者に就任した者である。控訴人は、生命保険業を業とする会社である。
  2. 武田道子は、平成六年三月三一日、控訴人との間で次のとおり生命保険契約を締結し、同日、保険料全額を支払った(以下、この契約を「本件保険契約」という)。
       (一) 死亡保険金額 二五〇〇万円
       (二) 保険期間 契約日から終身
       (三) 保険料 一七六四万一〇〇〇円
       (四) 保険料支払方法 一時払い
       (五) 保険金受取人 保険事故発生時の被保険者の法定相続人
  3. 武田道子は、平成八年七月一五日、秘密証書遺言により、本件保険契約の受取人を遺言執行者である被控訴人に変更し、死亡保険金の分配を別に定める遺言執行合意書に従って被控訴人に委ねるものとした。
  4. 武田道子は、前記のとおり平成八年八月一五日に死亡したので、被控訴人は控訴人に対し、平成八年一二月一八日、本件保険契約の受取人が被控訴人に変更されたことを通知したが、控訴人は本件保険契約の受取人は被保険者の法定相続人であると主張して、被控訴人に対する支払を拒んでいる。
  5. 控訴人は、保険金の受取人の変更の意思表示は、相手方のある意思表示であって、相手方に到達して初めて効果を生じると主張している。

争点

  1. 遺言により保険金受取人の変更をすることができるか

判旨

遺言により保険金受取人の変更をすることができるかについて

 保険金受取人変更は、保険契約者の一方的意思表示によって効力が生ずる(最判昭和六二年一〇月二九日民集四一巻七号一五二七頁)。この判例は、保険金受取人変更の意思表示の相手方は、保険者又は新旧保険金受取人のいずれに対するものでもよいと判示しており、これを相手方のある意思表示と解しているかのようである。確かにその意思表示は保険金受取人変更の法律効果を受けるべき前示の者のいずれかに対してすることが通例ではあろうが、一方的意思表示と解する限り、これについて常に相手方を要するとする必要はない。その意思表示(効果意思の表示)が外部から明確に確認できるものである限り、単独の意思表示としてすることも許容すべきである。商法六七五条二項は、保険契約者が、保険金受取人の指定変更権を有する場合において、その権利を行わずに死亡したときは、保険金受取人の権利は確定すると定めている。保険契約者が遺言によってその変更権を行使したときも、その意思表示自体は生前に行われているのであり、死亡までにその権利を行ったものと解するべきである。遺言の性質上、その効力は遺言者の死亡によって生ずることになるが、保険者としては、その通知があるまではその変更を対抗されることはなく(商法六七七条)、そのことによって特段の不利益を受けることはない。
 なお、保険金受取人の指定がある場合には、保険契約者の死亡により保険金請求権は保険金受取人の固有財産となり、これを保険契約者が遺贈することはできない旨判示する最判昭和四〇年二月二日民集一九巻一号一頁は、本件とは事案を異にする。すなわち、保険契約者以外の者を保険金受取人とする指定がある場合には、保険金請求権は保険契約者に帰属するものではなく、これを保険契約者が保険金受取人の変更以外の方法で処分することはできない。生前処分としてできないことを遺言によってもすることができないのは当然である。右判例は、右の理を判示したものにすぎず、遺言による保険金受取人の変更についてのものではない。

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