遺言者が心神喪失の常況にある場合に遺言無効確認請求を提起できるか【最判平成11年6月11日】

事案の概要

  1. 被上告人は、上告人藤井ウメの養子で、同上告人の唯一の推定相続人であり、上告人田中清は、上告人藤井ウメのおいである。
  2. 上告人藤井ウメは、平成元年一二月一八日、奈良地方法務局所属公証人黒瀬孝導作成同年第八四九号公正証書によって遺言をした。
  3. 本件遺言の内容は、上告人藤井ウメの所有する奈良市西登美ヶ丘所在の土地建物の持分一〇〇分の五五を上告人田中清に遺贈するというものである。
  4. 奈良家庭裁判所は、平成五年三月一五日、上告藤井ウメが、アルツハイマー型老人性痴呆である旨の鑑定の結果に基づき、心身喪失の常況にあるとして、同上告人に対し禁治産宣言をした。同上告人の症状は回復の見込みがない。
  5. 本件訴えは、被上告人が上告人らに対し、本件遺言につき、上告人藤井ウメの意思能力を欠いた状態で、かつ、公正証書遺書の方式に違反して作成されたと主張して、本件遺言が無効であることを確認する旨の判決を求めるものである。

争点

  1. 遺言者が心神喪失の常況にある場合に遺言無効確認請求を提起できるか

判旨

遺言者が心神喪失の常況にある場合に遺言無効確認請求を提起できるかについて

2 ところで、遺言は遺言者の死亡により初めてその効力が生ずるものであり(民法九八五条一項)、遺言者はいつでも既にした遺言を取り消すことができ(同法一〇二二条)、遺言者の死亡以前に受遺者が死亡したときには遺贈の効力は生じない(同法九九四条一項)のであるから、遺言者の生存中は遺贈を定めた遺言によって何らかの法律関係も発生しないのであって、受遺者とされた者は、何らかの権利を取得するものではなく、単に将来遺言が効力を生じたときは遺贈の目的物である権利を取得することができる事実上の期待を有する地位にあるにすぎない(最高裁昭和三〇年(オ)第九五号同三一年一〇月四日第一小法廷判決・民集一〇巻一〇号一二二九頁参照)。したがって、このような受遺者とされる者の地位は、確認の訴えの対象となる権利又は法律関係には該当しないというべきである。遺言者が心身喪失の常況にあって、回復する見込みがなく、遺言者による当該遺言の取消又は変更の可能性が事実上ない状態にあるとしても、受遺者とされた者の地位の右のような性質が変わるものではない。
3 したがって、被上告人が遺言者である上告人藤井ウメ生存中に本件遺言の無効確認を求める本件訴えは、不適法なものというべきである。

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