無効な遺言公正証書が死因贈与における民法550条の書面といえるか【東京高判昭和60年6月26日】

事案の概要

  1. 本件土地は元訴外亡根本栄太郎が所有していたが、同人は昭和56年4月25日84歳で死亡した。
  2. 原告は、栄太郎の子供であり、その法定相続分は3分の1である。因みに、被告は栄太郎の孫であり、栄太郎の代襲相続人である。
  3. 被告は、本件土地につき主文1項掲記の遺贈を原因とする所有権移転登記手続を経由して、本件土地の所有権全部を取得したかの如き登記手続を経由した。
  4. 本件遺贈は、昭和50年10月31日千葉地方法務局所属公証人板井俊雄の役場において、昭和50年第308号遺言公正証書をもつてなされた遺言によるものであるところ、本件遺言に立会つた2名の証人のうち訴外尾林國男は、栄太郎の当時の代襲相続人訴外尾林萬理子の配偶者であつて、民法974条3号の欠格事由を有する者であり、遺言としては無効である。
  5. 昭和50年10月中旬ころ、栄太郎は被告に対し、栄太郎が死んだら本件土地を被告に贈与する旨申込み、被告は直ちにこれを承諾し、ここに死因贈与契約が成立していた。

争点

  1. 無効な遺言公正証書が死因贈与における民法550条の書面といえるか

判旨

無効な遺言公正証書が死因贈与における民法550条の書面といえるかについて

 民法550条が書面によらない贈与を取り消しうるものとした趣旨は、贈与者が軽率に贈与を行うことを予防するとともに贈与の意思を明確にし後日紛争が生じることを避けるためであるから、贈与が書面によつてされたものといえるためには、贈与の意思表示自体が書面によつてなされたこと、又は、書面が贈与の直接当事者において作成され、これに贈与その他の類似の文言が記載されていることは、必ずしも必要でなく、当事者の関与又は了解のもとに作成された書面において贈与のあつたことを確実に看取しうる程度の記載がされていれば足りるものと解すべきところ、前記遺言公正証書は、栄太郎の嘱託に基づいて公証人が作成したものであり、右公正証書には前記死因贈与の意思表示自体は記載されておらず、また、これを死因贈与の当事者間において作成された文書ということもできないが、前記認定のように、栄太郎が本件土地を控訴人に死因贈与し、栄太郎は右死因贈与の事実を明確にしておくため公正証書を作成することとし、控訴人の了解の下に前記遺言公正証書の作成を嘱託したことが認められ、このことと遺贈と死因贈与とはいずれも贈与者の死亡により受贈者に対する贈与の効力を生じさせることを目的とする意思表示である点において実質的には変わりがないことにかんがみると、前記遺言公正証書は前記死因贈与について作成されたものであり、前記のようなかしの存在により公正証書としての効力は有しないものの、右死因贈与について民法550条所定の書面としての効果を否定することはできないものというべきである。
 したがつて、本件死因贈与は書面によるものというべきであり、これを取り消すことは許されない。

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