遺言の解釈の方法【最判昭和58年3月18日】

事案の概要

  1. 与作が昭和五一年一二月二四日死亡した
  2. 被控訴人が同人の妻であり、控訴人らが同人の弟妹である
  3. 与作が本件遺言書により遺言をした
  4. 本件遺言状の全文は、左のとおりです。
      「遺言状
     施無畏者を信じ、安心して往生せん事を念願す
     一、分骨して身延山に御預かり願う
     一、合資会社柘植材木店は馬場五郎が代表社員になつて事業を継続する事、
     一、朝江は無限責任社員としての義務を負う責務に対して朝江に生活保証として毎月少く共、金拾万円以上を柘植材木店より報酬として支給する事
     一、私の出資金弐百弐拾万円は、朝江に壱百弐拾万円五郎に壱百万円の権利を遺贈す
     一、エイトウへの出資金参拾万円朝江に遺贈す
     一、下西山町六〇の一の土地建物は五隊に遺贈す但し、朝江が存命中は無家賃で朝江に貸与し、固定資産税は朝江の負担とす
     右の遺贈の五郎に賦課される贈与税が高額で遺贈を受けて却つて迷惑と考えられ事も考慮して、先年十八銀行無記名定期預金百五拾万円を譲渡したる事も之れに充当が意味だつた
     これでも尚不足を生じる場合は(税額-150万円)×2/1を朝江は五郎に補助する事、
     一、川長寛より買受けた長与町斉藤郷字中津三九二の一の田、壱反七畝〇七歩、同町浜開四三一の口の田四畝一六歩、同町四三一の七の宅地250.84平方米(約七拾五坪)及び山本秀一より買受けた田、長与町斉藤郷字馬場の本四一番一壱八八弐平方米より分割つ実測952.886平方米(弐八八坪四)とその土地上の倉庫一棟は朝江に遺贈す
     馬場の本土地及倉庫は柘植材木店が経営中は置場して必要付一応其儘して、
     朝江の死後は柘植静枝弐、八郎弐、三郎弐、隼太参、馬場五郎参、高野九州男参、高野多美子参、高野芳子弐の割合で権利分割所有す、換金出来難い為、柘植材木店に賃貸して収入を右の割合各自取得す
     但右の割合で取得した本人が死亡した場合はその相続人が権利を継承す
     一、現金及預金は私の没後の一切の費用と朝江の生活費に充てる事、
     一、下西山町の家にある動産は朝江に遺贈する衣類等は朝江の計らいで、兄弟妹五郎進呈し別に宮崎、徳永、藤原、深堀、宮田、高野に適当な物を形見として進呈す、
     一、杉本わかは故縁の者無い為、朝江、五郎て相談の上、措置され度し、
     一、朝江が一括して遺贈を受けた場合の不動産の税金が分割した場合より甚しく安い時は、朝江が全部(或は一部)相続して、その後、前記の割合で頒合しても差し支えなし、
      昭和四拾九年参月七日
    (五十一年拾月七日或る一部を改更す)
             柘植伊作
     朝江・五郎・隼太 殿」

争点

  1. 遺言の解釈の方法

判旨

遺言の解釈の方法について

 遺言の解釈にあたつては、遺言書の文言を形式的に判断するだけではなく、遺言者の真意を探究すべきものであり、遺言書が多数の条項からなる場合にそのうちの特定の条項を解釈するにあたつても、単に遺言書の中から当該条項のみを他から切り離して抽出しその文言を形式的に解釈するだけでは十分ではなく、遺言書の全記載との関連、遺言書作成当時の事情及び遺言者の置かれていた状況などを考慮して遺言者の真意を探究し当該条項の趣旨を確定すべきものであると解するのが相当である。
 しかるに、原審は、本件遺言書の中から第一次遺贈及び第二次遺贈の各条項のみを抽出して、「後継ぎ遺贈」という類型にあてはめ、本件遺贈の趣旨を前記のとおり解釈するにすぎない。ところで、記録に徴すれば、本件遺言書は甲第一号証(検認調書謄本)に添付された遺言状と題する書面であり、その内容は上告理由書第一、一に引用されているとおりであることが窺われるのであつて、同遺言書には、(1) 第一次遺贈の条項の前に、伊作が経営してきた合資会社柘植材木店の伊作なきあとの経営に関する条項、被上告人に対する生活保障に関する条項及び馬場五郎及び被上告人に対する本件不動産以外の財産の遺贈に関する条項などが記載されていること、(2) ついで、本件不動産は右会社の経営中は置場として必要であるから一応そのままにして、と記載されたうえ、第二次遺贈の条項が記載されていること、(3) 続いて、本件不動産は換金でき難いため、右会社に賃貸しその収入を第二次遺贈の条項記載の割合で上告人らその他が取得するものとする旨記載されていること、(4) 更に、形見分けのことなどが記載されたあとに、被上告人が一括して遺贈を受けたことにした方が租税の負担が著しく軽くなるときには、被上告人が全部(又は一部)を相続したことにし、その後に前記の割合で分割するということにしても差し支えない旨記載されていることが明らかである。右遺言書の記載によれば、伊作の真意とするところは、第一次遺贈の条項は被上告人に対する単純遺贈であつて、第二次遺贈の条項は伊作の単なる希望を述べたにすぎないと解する余地もないではないが、本件遺言書による被上告人に対する遺贈につき遺贈の目的の一部である本件不動産の所有権を上告人らに対して移転すべき債務を被上告人に負担させた負担付遺贈であると解するか、また、上告人らに対しては、被上告人死亡時に本件不動産の所有権が被上告人に存するときには、その時点において本件不動産の所有権が上告人らに移転するとの趣旨の遺贈であると解するか、更には、被上告人は遺贈された本件不動産の処分を禁止され実質上は本件不動産に対する使用収益権を付与されたにすぎず、上告人らに対する被上告人の死亡を不確定期限とする遺贈であると解するか、の各余地も十分にありうるのである。原審としては、本件遺言書の全記載、本件遺言書作成当時の事情などをも考慮して、本件遺贈の趣旨を明らかにすべきであつたといわなければならない。

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