脳動脈硬化に基因する精神障害がある者に遺言能力はあるか【東京高判昭和52年10月13日】

事案の概要

  1. 義夫(当時六四才)が昭和二七年一二月頃脳溢血のため倒れた
  2. 義夫は右発病後数ケ月で卒中直後の症状からほぼ回復し、左程顕著な手足の運動麻痺は残らず、直後のような極端な言語障害もなく、昭和三二年頃までは犬を連れて散歩にも出ており、控訴人次郎が昭和三一年に別紙物件目録第四の土地上に家を建てた当時も、単身建築現場に出かけて工事の進行を見守り、建築完成後昭和三一年一一月から昭和三二年一月頃までの間には昼間に何回か右建物の留守番もしたし、また昭和三九年一一月頃までは単身で近所の理髪店に行っていたこと、しかし発病後は一切仕事に就かず、公的な場所には顔を出さず、家人との会話も乏しいまま、おおむね家庭内で茫乎無為の生活を送っていた
  3. 被控訴人正子は昭和二八年、被控訴人三郎は昭和三三年、控訴人四郎は昭和三六年にそれぞれ結婚したが、義夫はそのいずれの結婚式にも出席しなかった
  4. 昭和三四年九月に義夫の誕生日を祝して控訴人・被控訴人ら全員が集まったが、その折の歓談の一部を収録した録音テープ上の義夫の発言はきわめて僅かで、しかも不明確、不完全であり、反響言語的傾向も認められ、また子供達の談笑に全く調子が合わないまま、子供達に玩弄されている
  5. 、控訴人次郎が被控訴人四郎を相手方として申し立てた養子縁組無効確認事件につき昭和三八年五月に家庭裁判所調査官が義夫を自宅に訪問して調査したが、義夫は実際に縁組の届出にあたった当人でありながら、言語が明瞭でなかったため、調査官はキミから説明を求めたうえでそれを義夫に確めるという形で調査しなければならなかったし、また、ついで被控訴人清子・静江および控訴人三郎が控訴人次郎を相手方として申し立てた扶養事件については、義夫の遺産の分配に関する各当事者の思惑のくいちがいが紛争の実質的背景をなすものとみられたため、同年一〇月一〇日と翌三九年一月二七日に(すなわち、本件遺言時をはさんだ前後に)調査官が義夫方を訪ねたが、義夫は風邪を引いて寝ているし、耳が遠いので談話はできない旨のキミの申出により、一〇月には義夫の臥床している傍で、また一月には隣室で、キミだけから事情聴取が行なわれた

争点

  1. 上記事案のように脳動脈硬化に基因する精神障害がある者に遺言能力はあるか

判旨

上記事案のように脳動脈硬化に基因する精神障害がある者に遺言能力はあるかについて

義夫には本件遺言当時中等度の人格水準低下と痴呆がみられ、是非善悪の判断能力並びに事理弁別の能力に著しい障害があったとした前記鑑定人の鑑定結果は相当であると認められ、本件遺言当時義夫は有効に遺言をなしうるために必要な行為の結果を弁識・判断するに足るだけの精神能力を欠いていたものといわざるをえず、本件遺言は爾余の点につき判断するまでもなく、無効たるを免れない。

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