遺言書ではなく封筒にだけ署名押印がある場合有効か【東京高判平成18年10月25日】

事案の概要

  1. 亡A(明治44年10月11日生)は、平成16年5月13日に死亡し、その相続人は、妻控訴人(大正7年1月2日生)、両者間の長女(戸籍上は二女)B、長男被控訴人、二女(戸籍上は三女)C、二男(戸籍上は三男)D及び亡Aと亡Eとの間の長女Fである。
  2. 本件遺言に係る自筆証書は、縦約25.7㎝、横約18.2㎝の大きさに切り取られたカレンダーの裏面(本件文書)と封筒(本件封筒)から成り、(a)本件文書は、作成者の署名及び押印のいずれもなく、冒頭に「遺言書」という標題、末尾に「平成14年5月13日」という日付が記載されているほか、要旨、〈1〉妻との共有に係る土地家屋を被控訴人に、〈2〉「マンション203号室」だけを二男Dに、それぞれ取得させることとするほか、〈3〉長女B及び次女には新たには何も取得させないこと、〈4〉相続人らが法要を忘れないこと、〈5〉財産についていざこざを起こさないこと、と記載され、一部加入又は訂正をされた部分があるが、加入及び訂正の箇所にその旨の付記及び署名押印はされておらず、(b)本件封筒は、表に「遺言書」と記載され、裏面には、亡Aの氏名及び封じ目に「封」と判読できる1文字が記載され、○○名(注:亡Aの氏)の印影が顕出され、検認時には既に開封されていた。
  3. 本件遺言に係る自筆証書は、平成16年11月26日、東京家庭裁判所(同裁判所同年(家)第9206号遺言書検認申立事件)において検認された。(甲8)
     被控訴人は、検認の際、亡Aの死後、平成16年7月3日、同人の自宅の金庫の中に本件封筒に密封された本件文書を発見したと述べた。本件文書及び本件封筒に書かれた文字の筆跡については、検認の際、Fは亡Aの筆跡であるかどうかは分からないと答え、被控訴人、B及びCは、亡Aの筆跡であると答え、本件封筒の裏面の印影については、B、C及びFは亡Aの印章であるかどうかは分からないと答え、被控訴人は、亡Aの印章であると答えた。
  4. 被控訴人は、本件遺言が自筆証書遺言として有効であると主張している。

争点

  1. 遺言書ではなく封筒にだけ署名押印がある場合有効か

判旨

遺言書ではなく封筒にだけ署名押印がある場合有効かについて

(1)自筆証書による遺言は、遺言者が、遺言の全文及び日付を自書し、署名及び押印をすることを要する(民法968条1項)。
 本件についてこれをみるに、前記前提事実のとおり、本件文書には遺言者とされる亡Aの署名及び押印がされておらず、本件文書自体をもって自筆証書遺言として有効なものと認めることはできない。
(2)もっとも、前記前提事実のとおり、本件封筒には、表に「遺言書」と記載され、裏面に亡Aの氏名が記載され、「○○」名(注:亡Aの氏)下の印影が顕出されており、亡Aが本件封筒に署名して押印し、かつ、本件文書と本件封筒が一体のものとして作成されたと認めることができるのであれば、本件遺言は、亡Aの自筆証書遺言として有効なものと認め得る余地がある。
 この点につき、被控訴人は、亡Aの四十九日法要の当日、B及びその他の亡Aの子ら(Bら)が来訪する前に金庫を開けて糊付けされた本件封筒を発見し、糊付けをはがして開封し、本件封筒の中に入っていた本件文書をBらに見せた旨の陳述記載(乙2)が存する。
 しかしながら、一方、〈1〉平成14年5月13日(本件文書の作成日付)の数か月前から平成16年5月13日(亡A死亡時)までの間、被控訴人のみが亡Aと同居しており、〈2〉被控訴人は、亡Aの四十九日法要の当日(同年7月3日ころ)、Bらに対し、自宅の金庫の中から発見したとして、本件文書のコピーのみを示し、求められながら原本を示すこともなく、本件封筒の原本及びコピーのいずれをも示さず、本件文書を発見した時期についても告げず、〈3〉被控訴人は、東京家庭裁判所における検認の際、Bらに対し、本件文書及び本件封筒の各原本を初めて示し、本件文書の封入された本件封筒を上記法要の当日に発見したと初めて告げたのであり(上記〈1〉から〈3〉までにつき、甲8、16及び17並びに弁論の全趣旨)、これらの事実に加え、〈4〉上記検認の当時、本件封筒は既に開封されていたこと(前記前提事実)をも考慮すると、被控訴人の上記陳述記載は採用の限りではなく、他に、本件文書と本件封筒が一体のものとして作成されたことを認めるに足りる証拠はない。
(3)以上のとおり、本件文書と本件封筒が一体のものとして作成されたと認めることができない以上、亡Aが本件封筒の裏面に署名し、その意思に基づいて押印したかどうかを問うまでもなく、本件文書には亡Aの署名及び押印のいずれをも欠いており、本件遺言は、民法968条1項所定の方式を欠くものとして、無効である。

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