遺言書の文言の中に生ずる余白は加除その他の変更にあたるか【東京高判昭和55年11月27日】

事案の概要

  1. 本件遺言書(ただし同号証の五は表に「遺書 上原保隆」と毛筆で墨書し名下に押印した封筒である。)のうち、第一葉(同号証の一)は、全文が毛筆による墨書であつて末尾に「昭和四十六年拾月十八日」という日付の記載と「父 上原保隆」という署名押印がある
  2. 第二ないし第四葉(同号証の二ないし四)は、いずれも同じ横書きの書簡用紙に大部分は黒インクのペン書き、一部はブルーブラックインクのペン書き及び黒色ボールペン書きで、推定相続人全員への推定遺産の配分が記載され、これに引続き第四葉の末尾に毛筆墨書で三行に「以上後日のため認む 昭和47年11月10日 父上原保隆」と記載し氏名の右脇に押印してあり、これが昭和四六年一〇月一八日付の第一葉と合わせて前掲乙第一号証の五の封筒に納められていたところから、その全体が相当の期間をかけて練り上げられたものであり、その間一応得られた成案に立脚して先ず黒インクのペン書きで記載し、これに補充、訂正を加え、それ以上改めるべき点はないとして最終的な遺言書とすることを決断したときに末尾の墨書部分が付加された
  3. 本件遺言のうち、被控訴人武勇の分として「前述以外の土地其の他財産は全部与える」と記載した部分は、黒色ボールペンで後日加筆されたものである
  4. 本件遺言中控訴人の取得分を定めた部分に「二本松上山林(落葉松)」の記載がある

争点

  1. 日を異にして自書した文書をまとめた自筆証書遺言は有効か
  2. 遺言書の文言の中に生ずる余白は加除その他の変更にあたるか
  3. 物件の表示が不完全な場合でも自筆証書遺言は有効か

判旨

日を異にして自書した文書をまとめた自筆証書遺言は有効かについて

 民法九六八条は数次にわたり日を異にして自書した文書をあわせてこれを一つの遺言にまとめ、とりまとめた日をもって遺言の日付とすることを禁止するものとは考えられないから、右のように一通の自書した文書に補充、訂正を加えてゆき、これを仕上げた段階でその日を日付として遺言書とすることも当然許されるものというべきである。
 従つて本件遺言は、具体的な財産の配分を別紙に譲り相続人間の和合と協力を要請した第一葉の遺言と、具体的な財産の配分を定めた第二葉ないし第四葉の遺言との二つの部分から成るが、その間に何ら牴触するところはなく、夫々の内容及びそれが一綴りとなつている状態(このことは控訴人の自陳するところである。)から考えれば、右両者は、全体として一個の遺言を形成しているものというべく、この場合、本件遺言の日付は、特段の反証のなら本件においては、後の日付である昭和四七年一一月一〇日であると認めるべきである(本件遺言の第一葉と第二葉との間の割印の関係や、第一葉の内容からすると、第一葉には以前第二ないし第四葉とは異る内容の別紙が付属させられていたかとも見られるが、仮りにそうだとしても、その後の遺言でこれを牴触する第二ないし第四葉の遺言によつてそのとおりに改められたことになる。)。

遺言書の文言の中に生ずる余白は加除その他の変更にあたるかについて

 民法九六八条二項は、他人による遺言書の変造等を防止する趣旨に出たものであるが、同条項にいう「加除その他の変更」は、基になる記載があっての「加除その他の変更」である。そしてこの場合、当該遺言書の文言の中に生ずる余白は、右にいう基になる記載(いわば消極的記載)に当らないというべきである。けだし、法は、遺言書については、余白の字数或いは行数を明示し、余白を固定することまでを要求していないからである。このことは、公証人法三八条が、公正証書について、文字の挿入、削除の方式を規定するのに合わせて、同法三七条二項が、空白部分には墨線を引いて字行を接続させるべきものとしているのと対比されるべきである。従つて、遺言者が右文言中に余白に書き入れることは、前示民法の法条にいう加入に当らないというべきである。このように解することは、遺言書を作成する遺言者の通常の意識にも合致するものであろう。
 これを本件についてみるに、前掲乙第一号証の四によれば、控訴人主張の「前述以外の土地其の他財産は全部与える」との記載は、黒色ボールペンを用いてあり、その前行の記載が黒インクを使用したペン書きであるのと異なるから、一般的には、前行に続いて書き進められたものとは認め難いが、前記条項にいう「加除その他の変更」には当らないというべきである。

物件の表示が不完全な場合でも自筆証書遺言は有効かについて

 遺言制度上、遺産の処分に関する遺言者の意思はできるだけ尊重さるべきものであるから、遺言における物件の表示が客観的には不完全なものであつても、それが一定範囲の人の間で特定の物件を指示する呼称として使用されその結果として遺言に直接の利害関係を有する者で該物件を指示することが明らかである場合には、その表示による遺言は利害関係人間において有効と解してよいと考えられる。ところが被控訴人らは、前記遺言書の表示が上原家の内部で前掲二筆の畑を指示する通称であることを認めているから、本件遺言は相続人間においては有効に該二筆の畑を控訴人が相続すべきことを定めたものというべきである。

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