相続放棄の申述受理の審理の範囲【仙台高決平成元年9月1日】

事案の概要

  1. 被相続人である河合清は宅地、田、畑など合計10,173平方メートルと建物157平方メートルを所有していたが、上記土地の大部分は畑であり、畑のうち約7割が桑畑で、残り3割位を野菜畑として被相続人の妻シズ子が耕作していた。
  2. 抗告人らは相続財産としてこれらの不動産があることを認識していたが、抗告人らの意識には、農家では原則として長男が後を継ぐことになつていたので、被相続人の長男茂明が後を継ぎこれらの不動産を取得するものと考え、これらの不動産については関心がなかつたので、何ら調査をしなかつた。
  3.  しかるに、上記不動産の大部分について、昭和56年5月27日受付をもつて、原因同月6日設定、極度額2,965万円、債務者河合清、根抵当権者○○市農業協同組合とする根抵当権設定登記がなされていた。また、茂明は昭和51年に有限会社○○建築工業を設立し、自ら代表取締役となり、被相続人を取締役としたが、同人は名目的取締役であつて、上記根抵当権は有限会社○○建築工業の運転資金を借入れるため、茂明が被相続人名義で設定したものであり、茂明が被相続人名義で借入れた負債総額は約2,762万円に達していた。

争点

  1. 相続放棄の申述受理の審理の範囲

判旨

相続放棄の申述受理の審理の範囲について

 相続放棄の申述を受理するかどうかを判断するに当り、家庭裁判所がいかなる程度、範囲まで審理すべきかは、受理審判の法的性質をいかに考えるかによるものであるが、相続放棄は自己のために開始した不確定な相続の効力を確定的に消滅させることを目的とする意思表示であつて、極めて重要な法律行為であることに鑑み、家庭裁判所をして後見的に関与させ、専ら相続放棄の真意を明確にし、もつて、相続関係の安定を図ろうとするものである。
 従つて、受理審判に当つては、法定の形式的要件具備の有無のほか、申述人本人の真意を審査の対象とすべきことは当然であるが、法定単純承認の有無、熟慮期間経過の有無、詐欺その他取消原因の有無等のいわゆる実質的要件の存否の判断については、申述書の内容、申述人の審問の結果あるいは家庭裁判所調査官による調査の結果等から、申述の実質的要件を欠いていることが極めて明白である場合に限り、申述を却下するのが相当であると考える。けだし、相続放棄申述受理審判は非訟手続であるから、これによつて相続関係及びこれに関連する権利義務が最終的に確定するものではないうえ、相続放棄の効力は家庭裁判所の受理審判によつて生じ、それがなければ、相続人には相続放棄をする途が閉されてしまうのであるから、これらの点を総合考慮すると、いわゆる実質的要件については、その不存在が極めて明らかな場合に限り審理の対象とすべきものと解するのが相当だからである。

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