後見人による相続放棄は利益相反行為にあたるか【最判昭和53年2月24日】

事案の概要

  1. 別紙目録(一)および(二)記載の各物件(本件物件)は先代Aの所有であつたところ、同人は、昭和二三年二月二六日死亡した
  2. 、当時同人には先妻Dとの間に生れたC、E、B、F、G、H、Iと、後妻Jとの間に生れた控訴人ら(K、L、M、N)がいたが、右先、後妻ともすでに死亡していたので、右子らがその遺産を相続することになつたところ、長男Cを除くその他のものは相続放棄をした
  3. 右Cは昭和二五年一月一日死亡し、被控訴人は同人の妻であるが、本件物件につき控訴人ら主張のごとき被控訴人名義の各登記がなされている
  4. 先代A死亡当時、同人と先妻Dとの間の前記子らはいずれも成年に達していたが、後妻Jとの間の子である控訴人らは、いずれも末成年で、控訴人K一五歳、同L一一歳、同M九歳、同N七歳であつた。
  5. 当時長男Cは宇都宮高等農林学校を卒業後福島県庁に、また三男Bは北海道大学を卒業して三菱電気株式会社にそれぞれ勤務し、F、G、H、Iの四姉妹はいずれも高等女学校を卒業し、I以外のものは、すでに他家に嫁いでいた。しかし、次男Eは身心の病いのため家に残つていた。このような状態だつたので、A没後の四九日の法要の席上成年に達していた前記兄妹らは相談のうえ、このさい長男Cが帰農してAの遺産であつた本件物件を含む田約一町歩畑約五反歩ほか山林等によつて当時まだ未成年であつた控訴人らの養育と次男Eの面倒をみることにし、そのかわりに控訴人らを含む他の兄弟姉妹はそれぞれ相続を放棄することとし、三男Bはその善後処置を長男Cに一任の上、自己の印鑑を同人に交付した。そこでCはBを控訴人らの後見人に選任する手続をし、昭和二三年五月一〇日後見人B名義で控訴人らは相続を放棄する旨の申述が宇都宮家庭裁判所になされ、同年五月一七日付で右申述は受理され、Cを除く他の成年者の相続人からも相様放棄の手続がなされ、その結果Aの所有であつた別紙目録(一)(二)の物件を含む遺産はすべてCにおいて単独相続により取得したこととなつた
  6. その後Cは昭和二五年一月一日死亡し、同人の妻である被控訴人は六人の子らを抱えていたところから右Cの子らはすべて相続放棄をし被控訴人が単独でCの相続をし、(Cの死亡及び被控訴人の相続の事実は当事者間に争いない)Cに代つてEや控訴人らをみてゆくはずであつた。しかし被控訴人も自己の子の養育にせいいつぱいでEや控訴人ら四名の世話を満足にみることができず、傍目には虐待しているかのごとくにみえたので、Bら兄弟はこれを憂い、Eや控訴人らが生活してゆけるようにするため、Bがこれらのもののために被控訴人との間に同年五月八日約定書を作成し、被控訴人の取得したとされる遺産の一部を控訴人らに贈与させることにした。
     しかし被控訴人は右約定を履行しなかつたので、Bは控訴人ら四名の後見人の資格で、またE、F、Iの代理人としてかつ自己も申立人となつて被控訴人を相手とし前記裁判所に財産分与の調停を申立て(同庁昭和二五年(家)イ第三九四号)、その結果昭和二六年二月一日調停が成立した

争点

  1. 後見人による相続放棄は利益相反行為にあたるか

判旨

後見人による相続放棄は利益相反行為にあたるかについて

 共同相続人の一部の者が相続の放棄をすると、その相続に関しては、その者は初めから相続人とならなかつたものとみなされ、その結果として相続分の増加する相続人が生ずることになるのであつて、相続の放棄をする者とこれによつて相続分が増加する者とは利益が相反する関係にあることが明らかであり、また、民法八六〇条によつて準用される同法八二六条は、同法一〇八条とは異なり、適用の対象となる行為を相手方のある行為のみに限定する趣旨であるとは解されないから、相続の放棄が相手方のない単独行為であるということから直ちに民法八二六条にいう利益相反行為にあたる余地がないと解するのは相当でない。これに反する所論引用の大審院の判例(大審院明治四四年(オ)第五六号同年七月一〇日判決・民録一七輯四六八頁)は、変更されるべきである。しかしながら、共同相続人の一人が他の共同相続人の全部又は一部の者を後見している場合において、後見人が被後見人を代理してする相続の放棄は、必ずしも常に利益相反行為にあたるとはいえず、後見人がまずみずからの相続の放棄をしたのちに被後見人全員を代理してその相続の放棄をしたときはもとより、後見人みずからの相続の放棄と被後見人全員を代理してするその相続の放棄が同時にされたと認められるときもまた、その行為の客観的性質からみて、後見人と被後見人との間においても、被後見人相互間においても、利益相反行為になるとはいえないものと解するのが相当である。

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