子が相続放棄をした場合孫が相続人となるか【最判昭和42年5月30日】

事案の概要

  1. 戸高利秋は大正十四年生れで大分県立臼杵中学校を経て拓殖大学を昭和二十二年九月卒業して郷里の津久見市に帰つたのであるが在学中柔道相撲等に専念していたため簿記等は不得手であつた
  2. 戸高又兵衛は先代より相続した数多の不動産を持ち津久見市において屈指の財産家であつたが、昭和二十五年八月三日石灰石の採掘販売、石灰製造販売等を事業目的とし、同族会社である戸高工業株式会社で創立し自らは社長となり戸高利秋を専務として事業の運営にあたつた。しかし又兵衛は酒好きで日中でも長時間に及んで飲酒するというところもあつて自宅内にあつた事務所に毎日出勤することなく日常の会社業務は専ら戸高利秋及び事務員高木昭一郎において処理し、外面的には会社の実権は戸高利秋の手中にあるという感じを与えないでもない状態であつた。しかも右利秋が前述のように簿記等に暗いので帳簿等の整理は専ら高木昭一郎のみの知るところであつて同人の作成する諸帳簿も売掛帳位であつて到底事業の実態を正確に把握し得るに足らなかつた。それ故又兵衛は右会社の営業状態を認識せず欠損になるようなことがあつても知らないでいる場合が多かつた
     しかしながら事業の一切を利秋に委ねていたわけではなく販売面、金融面での取引先との交渉には自ら当り唯既に自ら大筋を決定した範囲内においては手形の割引給料の支払等を利秋に委ねていたが家計の面でも土地家屋の賃貸料を取立ては自らもしくは山田文七に命じて行なわせ市税なども市当局の態度に腹を立てて敢て滞納する等納税のことでも利秋らに委ねず、家計上の支出については利秋の家族をも含め妻キヨウに行なわしめ利秋はその小使銭をも母キヨウから貰つておつた
  3. ところで利秋は遊興費等の小使銭の不足を会社より支出せしめたりなどしていたがこれらによつて生じた会社経理上の不足もあり昭和二十六年頃から岩崎顕一郎より又兵衛には内密で高利をもつて金借するようになつた。しかもその金利は月三分遅延利息月一割しかも元本は借用月数をもつて按分し各月割賦支払うというものでその債務は急速に増大していつた。そして昭和二十八年六月二十九日には岩崎顕一郎から根抵当権の設定を求められるに至り、又兵衛には内密であることを告げたけれども結局その要求に応じ、又兵衛の不動産につき根抵当権を設定し、その後引続き他からも借財を重ね、昭和三十年三月頃までには佐伯顕一郎のほか佐伯金融株式会社、福岡相互銀行、伊豫銀行、大分信用金庫等に対し合計千数百万円に達し、しかもその多くは順次前債権者に対する金利の支払等に充てるためになされてきた
  4. 被告は昭和二十六、七年頃まで岩崎顕一郎の支配人格でその金融の事業に携つていたが、その後雇傭関係の切れた後も顕一郎のために働き、戸高利秋との金融の交渉も自らこれに当り或は同席しておつたのであつて利秋が顕一郎のために前記根抵当権を設定するに際しても利秋にはその登記費用すら負担する力がなかつたので自らこれを貸与した。また利秋は被告の娘渡辺郁貸主名義融資を受けておつたがその貸金も漸次増大して昭和二十九年八月頃にはかなりの額に達し利秋はその弁済の方途につき苦慮し、同年八月七日被告との間に本件土地の売買契約書(甲第十二号証の一)を取交わし所有権移転登記手続をするに至つた
  5. かように利秋は数多の借財をかかえて困惑し、その風評は津久見市内の多くの人の耳にも入るようになり、しかも昭和二十九年の初頃には被告から強制執行を受ける等のこともあり、昭和二十九年の十月頃津久見市長黒岩岩太郎の協力を求め、佐伯金融株式会社代表者岩崎政見が又兵衛に内密であることを知つて金融をしてくれたため急場を凌ぐことができた
  6. ところで右黒岩岩太郎及び右の金融に関係した川野長谷治はこのように利秋が又兵衛に内密にしていることを黙視することができないとして又兵衛にこの旨を告げようとしたけれども、利秋に懇願されて控えてきた。しかし川野長谷治がついに昭和三十年五月頃になつて又兵衛に打明けたところ、又兵衛は激怒して、利秋は一旦は家を離れて別荘にいつていた

争点

  1. 子が相続放棄をした場合孫が相続人となるか

判旨

子が相続放棄をした場合孫が相続人となるかについて

 しかし、改正前の右九三九条二項は、放棄者の相続分は他の相続人の相続分に応じてこれに帰属すると規定しているところ、本件においては、子が全員放棄し、他の相続人としては妻が存在するのみであるから、放棄者たる子の相続分は全部妻に帰属し妻が単独相続をすると解するのが正当である。けだし、同項は、同順位の相続人があるかぎり次順位の相続人(本件においては被相続人の孫)が繰り上つて相続人となることを予想していないからである。新民法における相続制度は、血族相続権と配偶相続権とを別種併立のものとしていることは明らかであるが、それであるからといつて同項の明文に反する論旨の見解は採用することができない。

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