最判平成13年7月10日

 (1) 共同相続人間で相続分の譲渡がされたときは、積極財産と消極財産とを包括した遺産全体に対する譲渡人の割合的な持分が譲受人に移転し、譲受人は従前から有していた相続分と新たに取得した相続分とを合計した相続分を有する者として遺産分割に加わることとなり、分割が実行されれば、その結果に従って相続開始の時にさかのぼって被相続人からの直接的な権利移転が生ずることになる。このように、相続分の譲受人たる共同相続人の遺産分割前における地位は、持分割合の数値が異なるだけで、相続によって取得した地位と本質的に異なるものではない。そして、遺産分割がされるまでの間は、共同相続人がそれぞれの持分割合により相続財産を共有することになるところ、上記相続分の譲渡に伴って個々の相続財産についての共有持分の移転も生ずるものと解される。相続分の譲渡により生ずるこのような法的な状態は、譲渡前に個々の不動産について相続の登記がされたか否かにより左右されるものではない。
 (2) 農地法3条1項は、農地に係る権利の人為的な移転のうち農地の保全の観点から望ましくないと考えられるものを制限する趣旨の規定であるところ、相続によって生ずる権利移転も相続人が非営農者である場合には農地の保全上は望ましいとはいえないものの、相続がそもそも人為的な移転ではなく、相続による包括的な権利承継は私有財産制の下においては是認せざるを得ないものであることから、規制対象とはしていないものと解される。そして、同項7号、10号、農地法施行規則3条5号は、遺産分割、特別縁故者への相続財産の分与及び包括遺贈について、人為的な権利移転であり農地の保全上は望ましくないものも含まれているにもかかわらず、その実質が相続による権利移転と異ならないかこれに準ずるものであることにかんがみて、その規制を差し控えているものと解される。
 (3) 相続財産に農地が含まれているか否かを問わず、共同相続人間において個々の農地ではなく包括的な相続人たる地位を譲渡すること自体は、農地法3条1項が規制の対象とするものではない。そして、共同相続人間における相続分の譲渡に伴い前記のとおり個々の不動産についても持分の移転が生ずるのは、相続により包括的な権利移転に伴って個々の財産上の権利も移転するのと同様の関係にあり、相続人の1人である当該譲受人に農地についての権利が移転すること自体は同項の是認するところである。また、相続分の譲渡による権利移転はその後に予定されている遺産分割により権利移転が確定的に生ずるまでの暫定的なものであって、遺産分割による農地についての確定的な権利移転については許可を要しないとされているのである。
 (4) 以上の点にかんがみれば、共同相続人間においてされた相続分の譲渡に伴って生ずる農地の権利移転については、農地法3条1項の許可を要しないと解するのが相当である。このように考えるべきことは、相続分の譲渡が一部の相続人のみによって行うことができることや、その効力が相続開始時にさかのぼらないことによって、左右されるものではない。
 そして、相続人は相続分の譲渡により生じている実体上の権利関係に符合するように登記簿の記載を改めることを求める正当な利益を有するものというべきであって、相続財産である農地について既に相続の登記がされていることは、その妨げとなるものではない。
 (5) したがって、許可書の添付がないことを理由に本件登記申請を却下した被上告人の決定に違法がないとした原判決には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があるから、論旨は理由があり、原判決は破棄を免れない。そして、以上によれば、同決定を取り消すべきものとした第1審判決は正当であるから、被上告人の控訴を棄却すべきである。

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